2007-01-01から1年間の記事一覧

夕焼け

アニメ映画『河童のクゥと夏休み』(日本、原恵一)の少年は、河童のクゥを宅急便で沖縄に配送する。コンビニの店員に宅配の箱を渡したあと、店の外に座る。クゥが去るのを見届けようと、配達車を待つ。 やがて、道路の向こうの空が赤くなる。夕焼けだ。 車…

姿

ちばあきおの漫画『キャプテン』(集英社文庫)の主人公、谷口タカオは、野球少年としては落ちこぼれだった。 名門の中学野球部にいたものの、二軍で補欠。野球をのびのび楽しもうと転校するが、名門のレギュラーだったと部員に誤解され、過度に期待される。…

勝利よりも…

「少年ジャンプ」といえば、「友情」「努力」「勝利」が三大原則のように受け止められてきた。初代編集長がアンケートで子どもたちに好きな言葉を聞くと上位にあがったのがこれらの言葉だった。(朝日新聞8日朝刊・中村真理子『消えた「男の子」』〈2〉) 現…

曲がり角

「男の曲がり角」について、ライオン(本社・東京)がインターネットで調査した。 「男の曲がり角」は何歳か、体力、外見、精神面についてサラリーマンの意見を聞いたところ、平均年齢は35歳だった。すでに20代でも7割が曲がり角を感じていた。……曲がり角と…

現場報告

いつでも更新できるネットは「感情的なメディア」だと感じます。飛行機に乗り遅れそうなときに、走りながらその様子を書く。人をなぐりたい、と思ったときの気持ちもそのまま。感情の揺れを表現できる点が良いですね。(日本経済新聞13日夕刊『ちょっとデジタ…

記憶の継承

映画『天然コケッコー』の脚本を担当した渡辺あやは、原作者くらもちふさこの大ファンだった。その思いをプログラムに綴っている。 最高にすてきなことは、最悪に退屈な自分の日常のすぐ隣にひそんでいるのかもしれない、と想像してみる練習を、私はくらもち…

絶対者

先ごろ死去した小田実の言説を佐高信が紹介している。 小田は「不安定と絶対者がないことが結びつくとき、そこにもう一つ、繁栄から取り残されていくという状況が結びつくとき、人は新しい絶対者を待望するのだろう」と指摘している(『週刊金曜日』10・17日…

観察者

セミは意外な場所に止まっている。網戸、壁、物干し竿……。声をたどりながら、居場所を見つけるのは楽しい。 相手が野生のコアラとなると、慣れた人でも見つけるのが大変らしい。 コアラを探してユーカリの林を歩いていると首が痛くなるほど見上げ続けなけれ…

生命の価値

亡き叔父が特攻隊員だったことを知った日系2世のリサ=モリモト監督が、当時の隊員を訪ね歩く。『TOKKO 特攻』(米国・日本)は、狂信的な指令で死の恐怖を味わい、仲間を失った元特攻隊員の証言録だ。生存者の温和な口調から伝えられるのは、戦争の不…

幻の司馬作品

『街道をゆく』の編集担当者に、司馬遼太郎が編集記者時代の苦労を語っている。(朝日新聞4日夕刊『街道をついてゆく』村井重俊) もともと産経新聞記者の司馬さんは、文化部時代にある作家の原稿をもらうことにずいぶん苦労したという。 「ひどいときは、つ…

空気

画家の大竹伸朗がエッセイで記している(日本経済新聞7月31日夕刊)。 「今時の女子高生の間で使われている『KY』って何のことだか知ってます?」 唐突に知り合いの四十前の男に聞かれた。…… 「正解は゛空気読めない゛の略らしいです。ちなみに゛空気読め…

キャラメル回想録

演劇集団キャラメルボックスが創立されて、今年で22年め。最新作『カレッジ・オブ・ザ・ウィンド』のプログラムで、演出家・成井豊が結成当時を回顧している。 旗揚げしてしばらくは、客席が満員になることはあまりなかった。僕は開場時間になると、劇場の前…

ちょっと反対

参院選を前に、ミュージシャンの曽我部恵一(元サニーデイ・サービスのボーカル)が語った(『週刊金曜日』27日号)。 ソロになって初めて出したシングルの『ギター』という曲で、「戦争にはちょっと反対さ」と歌ったんですね。ジョン・レノンが歌っていた…

世界が始まる朝に

チャットモンチーの『世界が終わる夜に』(CD『とび魚のバタフライ/世界が終わる夜に』に収録)が、映画『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(日本、吉田大八)の主題歌に採用されている。 わたしが神様だったら こんな世界は作らなかった 愛という名のお守…

夏の記憶

本屋で小さな子どもが母親に叫んだ。 「ママー! ナツイチだよ! ナツイチ!」 人の名前ではない。視線の先には集英社文庫が特設の棚に並んでいた。 文庫の広告を子どもは以前から知っていたのか。それにしても、よほど強烈な印象を子どもに与えていたのだろ…

本の親

まともな書き手ほど、自分の著書を見るのは恥ずかしいらしい。 川本三郎が、『あのエッセイこの随筆』(実業之日本社)で、桐野夏生・篠田節子・宮部みゆきのトークショーを見に行ったときのことを書いている。 桐野夏生が「ねえ、本屋で自分の本買うの恥ず…

騒音

森の奥で妻の墓を探し当てた老人が、墓の上で気持ちよく眠る。若い女がそれを見守る。二人を取り囲む木々の間から、飛行機の音が聞こえる。 映画『殯(もがり)の森』(日本、フランス、河瀬直美)の終わりのほうの場面だ。 静けさの意義を知るのは、そんな…

創造の現場

現在、大学教授でもあるアニメーターの安彦良和は、国内アニメの現状をシビアに認識している。 よいものはほんの一握り。今のブームもロボットものなど商業アニメが作り出したいびつな面があるし、外国などに比べて決して優れていない。 勘違いしている学生…

遠縁情報

親しい相手から得る濃密な情報も、もちろん大事だが、ふだん縁の薄い人からの意外な情報も重要だ。 近くの人は自分と似通った情報しか持たないが、めったに会わない人がもたらす情報は新鮮で、時に重い価値を含む。(『日経マガジン』7月15日号「人づきあい…

幸福な誤解

快作『マルホランド・ドライブ』を挙げるまでもなく、多様な解釈ができるのが、デビッド・リンチの映画の面白さだ。インタビュー(日経新聞7月12日号夕刊)に答えて、リンチは笑う。 抽象的なアイデアを形にできるのが映画の魔法。抽象度を増すほど、見る人…

仮想芝居

劇場に着いたとき、すでに舞台が始まっていた。ポツドールの『人間失格』である。場面の都合上、一時的に客止めだったので、しばらく控え室にいた。親切な係員が寄ってきて、モニターを示しながら、ここまでの展開を教えてくれた。 「この男がですね、テレク…

食べる

弘前劇場の演劇には、飲食の場面が実に多い。ペットボトルの水を一気飲みしたり、餅を食べたりする。 『冬の入口』では、父の火葬の際、斎場の控え室で次男と隠し子が対面し、精進落としを食べる。中身は精進落としというよりもお弁当だ。しかも、父の好物で…

水底の砂糖

フランスの映画監督、ブリュノ=デュモンは、元哲学教師。映画学校の試験に落ち、企業ビデオを作りながら映画作りを学んだ。(『週刊金曜日』7月5日号「きんようぶんかインタビュー」) トヨタの生産ラインやキャンデーの製造過程を説明するビデオを何十本も…

ブログの鮮度

藤原新也はブログだけでエッセイ集を作るつもりだった。しかし、あらためてブログに目を通すと、方針を変えざるを得なかった。(『名前のない花』東京書籍) 言葉遣いも荒っぽいし、思ったことをあまり咀嚼することもなく書いていたりする。添削もしない書き…

過去なんて

未来の修正というのは出来ぬが、過去の修正ならば出来る。そして、実際に起こらなかったことも、歴史のうちであると思えば、過去の作り変えによってこそ、人は現在の呪縛から解放されるのである。(寺山修司) 自分の過去をすべて知るのは自分だけだ。トラウ…

フィクションの力

かつてフィクションの根底には、現実とつながりつつ、現実を越える世界観があった。劇団、本谷有希子の演劇『ファイナルファンタジックスーパーノーフラット』で展開される戯画的空間に、記号を越えるものがあるだろうか。 漫画オタクの青年が、ネットを通じ…

自分がいっぱい

自分というキャラクターは一つではない。どうにでも演じられるはずだし、だれでも、その可能性を持っている。だが、人前で自分を演じることが制約となり、キャラクターを狭めてしまうこともある。プロの俳優なら、硬軟自在の役柄を巧みに演じられるだろうが…

連呼を笑えるか?

宣伝車で名前を連呼し、街頭で握手を求める選挙運動。 うるさいわね。いまどき、おかしいわよ。 たいていの人がそう思う。だが、そんな風習が途絶えないのは、どぶ板選挙とか呼ばれる前近代的な戦術に共鳴する人も現にいるからである。 ドキュメンタリー映画…

見えない覚悟

映画『Dolls』、ドラマ『純情きらり』……。クールな演技で活躍する俳優・西島秀俊が、『日経マガジン』6月号のインタビューで、将来について語っている。 「これっぽっちも考えていません。映画にかかわるっていうのはたぶん、未来がないとおもっていないとだ…

観客ばんざい!

映画を撮りたくても資金がなく、失意の晩年を送った監督は少なくない。思うがままに映画を撮れる北野武は、幸せである。反面、彼を抑える者が周囲にいないから、見るに堪えない作品も生む。つまらない、くだらないと怒る観客がいたところで、北野は無視する…

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