2021-04-01から1ヶ月間の記事一覧

希望の家

『サンドラの小さな家』(アイルランド・イギリス)は、有能でタフな女性のサクセスストーリーではない。不器用で社会制度からも外された女が、大勢の協力者の手によって、夢を手にしようとする物語である。 暴力的な夫と離れて子どもたちと貧しい暮らしをす…

彼女の背負ったもの

『野球少女』(韓国、チェ・ユンテ)は、女子として、初のプロ野球選手を目指す高校生の物語。母親に反対されながらも、挫折したコーチや幼なじみのチームメートの支えによって、ひたむきに練習して、プロテストに挑む物語だけなら、定番のドラマに終わるだ…

異様な再現

研究都市を再建し、大勢のキャストを使ってソ連全体主義を再現するという巨大プロジェクト。KGB出身者までもキャストに加えた『DAU.ナターシャ』(ドイツ・ウクライナ・イギリス・ロシア、イリヤ・フルジャノフスキー、エカテリーナ・エルテリ)は、もはや映…

彼女たちの共存

家柄も生き方も正反対の女たち。共通点は、同じ男と関係を持ったことだ。ところが、『あのこは貴族』(日本、岨手由貴子)の二人は、衝突するのではなく、共存関係を保つようになる。分断ではない道筋。家の伝統を受け継いだだけの元恋人にも、彼女たちの生…

ノマドの詩人

車上生活者のノンフィクションが原作だが、『ノマドランド』(米国、クロエ・ジャオ)は、夫を亡くし、閉鎖された町を去って放浪する60代の主人公に加え、現実のノマド(遊牧民)たちをキャストに加えている。 自由でありながら厳しい生活。仲間とつながりな…

無理解への抵抗

カミュの『異邦人』でアラブ人に発砲せざるを得なかったムルソーの言動は、当事者であれば、決して不自然ではないが、裁判官や検察官は何ら理解しない。この種の無理解は、現代のメディアや消費者にも見受けられる。 完全版として久しぶりに上映された映画版…

物語の継続

ユーリー・ノルシュテインやかつての新海誠のように、アニメを一人で完結させるのではなく、劇場大作として、大勢のスタッフを使いつつ、自分の姿をダイレクトに投影させるは難しい。『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(日本、庵野秀明)は、それを商業映…

人質にされたとき

実話をもとにした『ある人質 生還までの398日』(デンマーク・スウェーデン・ノルウェー、ニールス・アルデン・オプレブ)は、IS国で人質にされた青年写真家の過酷な監禁生活と救出だけで、ドラマをまとめるのではない。身代金集めに奔走する家族や、殺害さ…

世界の調和

『世界で一番しあわせな食堂』(フィンランド・英国・中国、ミカ・カウリスマキ) フィンランドの食堂店に、中国人の料理人親子がやってくる。子どもから老人まで、快適に見える北欧の山村と、味と効能にたけた中国料理。もはや、世界は調和の時代だ。女店主…

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