2020-12-01から1ヶ月間の記事一覧

脳内世界は広がる

『私をくいとめて』(日本、大九明子)の独身OLは、世間的な生き方とは外れているが、脳内会話を続けることによって、うつ病になることも、狂うこともない。他人に迎合することもない分、きわめて健康的だ。恋仲になる年下の男も、彼女の生活様式を変えよ…

感情のスタイル

『ハッピー・オールド・イヤー』(タイ、ナワポン・タムロンラタナリット)の女は、実家をミニマルなデザイン事務所にしようと決断。大量の雑品を処分するには、友人から借りた物を返し、共有する家族の思い出も断ち切らなければいけない。最大の難関は、元…

鬼滅に見えるもの

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(日本、外崎春雄)は、原作やテレビ版を見なくても十分楽しめるだろう。剣士の前に立ちふさがる鬼が何を象徴し、弱さと寿命を自覚しつつ、終わりなき戦いに挑む炭治郎たちが、なぜ現在の観客の心を揺さぶるかは、あえて言…

相手の事情

引っ越し先のアパートには、布団を猛烈に音を立ててたたく隣人がいた。相応の理由があったが、執筆と子どもの世話に追われる主婦作家は、わからず、ののしるだけだった。 『ミセス・ノイズィ』(日本、天野千尋)の登場人物は、いずれも相手の事情が見えてな…

負けの輝き

ネット用の動画を編集した『アンダードッグ』(日本、武正晴)は、長尺ながら、どの場面も印象的だ。 元日本ランク一位ながら、今ではすっかり精彩を欠き、妻子とは別居し、デリヘル運転手として生計を立てる男。それでも彼に挑みたい者たちはいた。売れない…

傑作の舞台裏

『シラノ・ド・ベルジュテックに会いたい!』(フランス・ベルギー、アレクシス=ミシャリク)で描かれるのは、歴史的舞台劇の誕生秘話。無名の詩人が名優の公演の劇作を任されるが、公演まで1か月もなく、役者はわがままで公演日までトラブル続き。それでも…

映されていないもの

偉大な指導者の厳粛な葬儀という名目で、東側各国の要人が訪れ、国民は嘆き悲しむ。理想が真実であり、飢餓も粛清もなければ、ふさわしい儀式であったろう。 『国葬』(オランダ・リトアニア、セルゲイ・ロズニツァ)は、スターリン死去直後に撮影された国策…

魂を抜けて

眠りと共に魂が抜け出して、狼になる。『ウルフウォーカー』(アイルランド・ルクセンブルク、トム・ムーア、ロス・スチュアート)は、アイルランド神話というモチーフの深みに加え、アニメとしての造形美も傑出している。城下町や森も、ただきれいなだけで…

作品としての退廃

セレブのスキャンダルを暴露したカポーティの遺作『叶えられた祈り』の残りの原稿は、いまだに見つかっていない。関係者の証言からも決定的なものは得られていない。 ドキュメンタリー『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』(米国・英国、イーブス・バー…

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