2020-01-01から1ヶ月間の記事一覧

それぞれの物語

震災で家族を失った少女が、広島から岩手県の故郷までヒッチハイクする。『風の電話』(日本、諏訪敦彦)は、ただそれだけの物語だが、旅の途中で出会う人々それぞれの物語が、無数に存在したであろう人たちの物語を代弁している。名優たちの熟練した演技が…

受け継がれた手紙

SNS全盛の時代に手紙のやり取りで成立する設定を用意し、みずみずしさの残る娘の世代と、面影は残しつつも決して過去の関係の一線先には踏み込まない母親の世代とを連結させる。周到な仕掛けによって、『ラストレター』(日本)は、良くも悪くも、岩井俊二の…

どちらの世界でも

昔は文通、今はSNS。顔の見えないやり取りによるトラブルは、今も昔も起きている。『私の知らないわたしの素顔』(フランス、サフィ・ネブー)では、50代のシングルマザーであり、裕福な大学教授が、別人に成りすまして、20代の男に接近する。 だましたつも…

地下暮らし

電波も届かない貧民の住宅に住む一家。彼らとて、相応のスキルを持っているが、IT長者の優雅な生活とは比べ物にならない。金を生む技術や運とは無縁なのだ。『パラサイト 半地下の家族』(韓国、ポン・ジュノ)では、貧しい一家が知恵を働かせて、豪邸での下…

冤罪の扱い

犯罪が確定されていない段階で、警察が強引な捜査を進め、マスコミが犯人扱いで一斉に報道する。被疑者の生活は無視。冤罪の可能性など考えもしない。被疑者に不利なエピソードだけが盛んに流され、無罪と訴えるだけの手段は極めて乏しい。こうした事態であ…

許容の中で

野心的なドキュメンタリーで定評のある東海テレビのスタッフが、『さよならテレビ』(日本、ひじ方宏史)では、自局の報道現場にカメラを入れる。視聴率にこだわるあまり、伝えるべきニュースの取材がおろそかになったり、働き改革を推進する一方、契約社員…

それが見えたとき

スティーブン・キング原作のシリーズ後編『IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(米国、アンディ・ムスキエティ)では、ピエロの怪人と対決した少年少女が27年後に結集。知恵と体力をつけた状態で、再び立ち向かう。 子ども時代のトラウマに引き…

彼女にとっての物語

タリバン政権下のアフガニスタン。女は、人前で顔をさらすことも、買い物に行くことさえ許されない。自由を奪われた社会で、父親が投獄されたとき、一家が暮らすには、少女が少年のふりをして、食べ物を買いに行ったり、伝手を頼って父との接見を果たすしか…

不在を通じて

ドキュメンタリーのようでもあり、寓話のようでもある。『ある女優の不在』(イラン、ジャファル・パナヒ)は、少女の自殺動画の真相を調べるために女優と監督が村を訪ねるという設定から、抑圧される者の訴えや因習への抵抗が語られていく。 虚構と現実のバ…

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