2013-01-01から1ヶ月間の記事一覧
『東京物語』(小津安二郎)で戦死していた次男は、『東京家族』(日本、山田洋次)では、生きている。震災のボランティアで知り合った娘と、結婚を誓うのだ。 運命が喪失を生むのではなく、希望を生む。 山田ならではのスタンスである。
これまでただ「自分を責める」ことしか知らなかった私たちの世代が、「ブラック企業」という言葉を発明し、この日本社会の現状を、変えるべきものだとはじめて表現したことにこそ、この言葉の意義はある。(今野晴貴『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』文…
やり直しを図ろうとも、過去の罪が消えず、運命に翻弄されるジャン・バルジャン。それでも命を投げ出さないのは、息絶えた娼婦の愛娘を引き受けたからだ。娘の幸せを見届けるまで、人や境遇を恨むこともなく、いかなる困難にあっても、生き続ける。 古典から…
写っているのは、親子のように見えるが、同一人物。 幼少時の写真家と、30年後の写真家だ。 つながりがありながら、時間の経過をも感じさせる。 『この世界とわたしのどこか』(東京都写真美術館)で展示された大塚千野の合成写真は、時間の並列と、対象の微…
『最強のふたり』(フランス、エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ)では、率直であること、心に汚れがないことが、大金持ちの半身不随者と貧しい黒人青年を結びつけた。 もし富豪に、多数の使用人を雇ったり、身体が不自由でも自在に外遊できるだけの…
財布を拾った女子高生が友人に連れられて、持ち主の男子高生宅へ。わざわざ返しに行ったのが運のつきで、思いがけない事態に陥る……。 『ももいろそらを』(日本、小林啓一)は、予想外の展開を連ねて、世界の裏側を知らしめる。 意外な現実を知るのが青春時…
肉筆文書の不在、教養とは無縁の生活環境などから、シェイクスピアは別人ではないかとの説がある。彼を操る貴族こそが正体ではないかというものだ。 『もうひとりのシェイクピア』(英国・ドイツ、ローランド・エメリッヒ)は、フィクションならではの試みで…
よく『アートは社会を変えられるのか』と訊かれることがあります。社会におけるアートの本質を考えるうえで、それは確かに大事な質問ですが、なんだか愚問を投げかけられているような気になります。僕らは政治家ではありません。政治が社会を変えるものだと…
放射能事故の現場ではないが、決して遠いわけではない。 だからこそ、首都圏の市民は、事故の事実を忘れようとし、生活を変えまいとする。 そんな風潮に異議を唱え、過敏であるゆえに異端視された二人の女。彼女たちが交差するまでを『おだやかな日常』(日…