2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧
批評に文体をあたえるのは、知識でもなければ、観察や分析でもない。見ている姿勢から、たとえば言うという行為を開始するとき、私たちはある断絶をとびこえねばならない。見る位置から、人間の存在の間の断絶をとびこえようとするとき、批評もまた文体を生…
夫婦の葛藤、被災地と都会、ワークショップと現実、テキストと劇映画、地方と多国。『ドライブ・マイ・カー』(日本)は、濱口竜介の方法論が集約され、しかも、どう転ぶかわからないという緊迫感が、最後まで途切れることはない。観る者を触発し、見るだけ…
1969年の夏に開催された黒人の音楽祭「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」。大勢の観衆が訪れながら、ウッドストックの陰に隠れて、その模様は封印されていた。50年前の映像は、グラミー賞受賞者のアミール・クエストラブ・トンプソンの手で編集され…
身一つで金稼ぎのためにアラスカ行きを目指す女が、途中のオレゴンで、金も車も失い、唯一の友である愛犬さえ、手放すことになる。『ウェンディ&ルーシー』(米国、ケリー・ライカート)のヒロインは、ひたすら不器用だが、譲ることなき意思があり、優しさ…
『パンケーキを毒見する』(日本、内山雄人)は、関係者の証言によって、総理大臣の実像に迫る。政策の地盤沈下を一政治家の問題だけに終わらせず、少数の利権者のための政治がもたらした病根の実態まで、視野を広げている。 そんな政治家の答弁にうんざりし…
ネット社会は、批判されがちだが、時空を超えた関係を描き続ける細田守は、一貫して擁護する。『竜とそばかすの姫』(日本)では、内向きな女子高生が、ネットの世界に活動の場を広げることで、歌姫としての自分を見出し、まったく面識のなかった遠い地の少…
8月の甲子園で開催された女子高校野球の決勝戦は、男子のような悲壮感がなく、爽快さに満ちていた。人口が減り、野球人口も影響を受けている。それでも甲子園出場者の多様性が定着すれば、楽しみの幅は増すだろう。
『ハリーの災難』(米国、アルフレッド・ヒッチコック)のモチーフは、冒頭から死体になっている。彼の処置をめぐって、町の住人は、喜劇的なやり取りに終始する。埋めては堀り返し、また埋める。挙句は風呂場で洗われる死体。自分のせいで死んだのか? 住民…