2008-04-01から1ヶ月間の記事一覧

今夜走るために

路線廃止で失業した鉄道員たちが、自殺したり、強盗に走る。 安易に自主退職に応じたのがいけない、生き方を転換できないからダメなのだと、批判するのは簡単だ。しかし、誇りである職場を失ったのだから、鉄道員が自爆自棄になるのは、無理もないことである…

出発点

誰でも、社会の中で自分が名前のある存在として生きていたいと願っているのだ。そこに、詩と言うものの存立があると考えられる。だが、現在の社会では一人一人の人間がそれなりに存在を十全に認められているわけには行かないから、多くの人々から詩が読まれ…

中国の膿み

中国内モンゴル自治区でも砂漠化が進んでいる。 『トゥヤーの結婚』(中国、ワン・チュアンアン)の遊牧民一家は、水不足で夫が井戸を掘る。その際に事故で下半身不随になってしまう。やむなく、妻は、子どもだけでなく、前夫も養ってもらうことを条件に、夫…

発想の手

業田良家は、漫画のアイデアが出ないときに、とにかく手を動かすという。 「デッサンをしたり、ちょっとした落書きをしたりしているうちに、ふっと思い浮かぶことが多いそうだ」(朝日新聞4月21日夕刊「仕事中おじゃまします」) 発想法としては平凡だが、確…

悲しみの乾き時間

未亡人オードリーは夫の死を実感できない。夫の親友ジェリーは麻薬中毒。その二人が共同生活をすることで、沈んだ家族に明るさがよみがえる。 だが、それも長続きしない。子どもの扱いをめぐる衝突からオードリーはジェリーを追い出し、ジェリーの中毒が再発…

チンギス・ハーンの流儀

敵将を殺さず、味方に引き入れる。分け前を公平に分配する。 『MONGOL モンゴル』(ドイツ・カザフスタン・ロシア・モンゴル、セルゲイ・ボドロフ)で描かれる若き日のチンギス・ハーンは、きわめて民主的な武人として扱われている。 勢力拡大の手法が、現代…

卒業文学

『考える人』2008年春号に、識者の選んだ海外の長編小説ベスト100が掲載されている。 1位が『百年の孤独』、2位が『失われた時を求めて』、3位が『カラマーゾフの兄弟』。以下、優等生的とも言うべきか、世界文学全集に収録されそうな著名作品が、上位に…

相対化

ポツドール『顔よ』(本多劇場)では、顔にコンプレックスのある男女のやり取りが舞台上で同時進行する。顔半分を負傷した女、頬が荒れている男、醜女……。異性を前にコンプレックスを抱く彼女たちのこだわりは、他人に優越感を持てるか否かである。 彼女たち…

子宮文学

子宮に関する話などを女の詩人とか女の作家が書くと、たいていの男の評論家と男の作家はまずそこでちょっと驚いてしまって、自分のなかの不在の部分を指摘されてギクリとなって、それにはとってもかなわないということで、とりあえず引き下がったフリをして…

芸術って何?

しりあがり寿と本谷有希子の対談から―― 寿 マンガでも何でもそうだと思うけど、娯楽か芸術かは選ばないといけないというのは不幸な感じがするよね。いいときって、両方兼ね備えるだけじゃないけど、自分が作っているのをどっちにしようかと悩んでいるときっ…

ロウソクの明かり

デンマークのサムソ島は、夜が早い。広告の電飾もなく、街頭もほとんどない。電灯に頼らないからこそ、島民は優しい光を好む。 ロウソクの明かりが現役である。朝食時や午後のひとときにも人々はロウソクに火を灯す。(『日経マガジン・デザイン』4月号) 島…

アイス・キス

『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(フランス・香港、ウォン・カーウォイ)のラストでは、カウンターで眠り込んだノラ・ジョーンズの濡れた唇を見て、ジュード・ロウがキスする。 アイスクリームの汁のついた口。 そこに触れたいかどうかは、人それぞれだろう。

存在価値

イッセー尾形が演じるのは、満ち足りた成功者ではない。かといって、人生のすべてをあきらめた敗残者でもない。 「……先行きはないけど未来に燃えてるとか、抱えている矛盾したものをどうしても演じたい。しがらみにがんじがらめな人でなく、ある程度ボーダー…

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