2013-01-01から1年間の記事一覧

祭典

僕は今回のオリンピック招致を分析するとき、最大のポイントは主にソーシャルメディア上において「オリンピックで国民が一つになる」という物語に乗れない層、こうした物語に嘘くささを感じ、誘致反対を表明する層の存在が大きく可視化されていることにある…

教育する演劇

就活向けのキャリア教育が優先される現在の大学に、劇作家の平田オリザは疑義を唱える。 「多くの場合、成功体験を振りかざすオヤジの説教話を聞かされるだけに終わる。現場ではそれは通用しないよ、と。様々な夢を持つ若者に、人生を閉じるような教育をして…

浮遊する世界

チェルフィッチュ『地面と床』(神奈川芸術劇場)では、パフォーマンス・音楽・セリフそれぞれが、突出するのではなく、共生しながら、世界を演出する。3カ国語の字幕でさえ、ワキ方の役割を担っており、同時に批評対象でもある。 幽霊となった母の前で、勝ち…

法廷という場

法廷のやり取りでクセモノぞろいの人間がだましあう『リーガルハイ』(フジテレビ、古沢良太・脚本)。ドラマ的誇張を多用しながらも、普遍的なヒューマン喜劇である。 駆け引きの裏には真剣さがあり、本音の衝突のあとには爽快感を残す。各々が敗北しても、…

生命の倫理

3D技法で宇宙の浮遊感をリアルに表現する『ゼロ・グラビティ』(米国、アルフォンソ・キュアロン)。技法を超え、見る者の脳裏に生命の根源をも刻み込む。 スペースシャトルの事故で宇宙空間に投げされた女性飛行士が、犠牲となった同僚飛行士のメッセージに…

古典劇

古典劇にすぎないと思われた「竹取物語」が、いかに現代性と普遍性を備えていたか。 『かぐや姫の物語』(日本、高畑勲)は、一見、シンプルな物語と絵を通じて、人の生と死、あの世とこの世の往来を、深くまで描き出している。

運命

戦時の不条理で別れ別れになった父と娘。戦争3部作の完結編『遥かなる勝利へ』(ロシア、ニキータ・ミハルコフ)で、二人がようやく再会を果たすが、もはや悲劇は避けられない。 単なる戦争や政治ドラマを超え、人間の力だけではどうしようもない運命を描いた…

謝罪

謝罪を求めるのはどんなときか。お詫びに何を求めるか。 立場や場合によって、大きく異なる。 食い違いを知るのが、コミュニケーションであり、謝罪の機会なのだ。 セクハラ事件から国交問題まで、お詫びをめぐって人々が右往左往する『謝罪の王様』(日本、…

高齢化社会

NHK『終の住処はどこに〜老人漂流社会』、『"認知症800万人"時代"助けて"と言えない孤立する認知症高齢者』では、心身が弱っても、財力の乏しさから、まともな生活を送れない老人たちの姿を映し出す。 施設に入れず、短期間で居場所を変え、思い出の詰ま…

越境

長谷川孝治の作・演出による『祝/言』(新国立劇場)には、日中韓3カ国のアーティストが結集。日韓両家の結婚式が震災で消滅するまでの劇に、歌や踊り・写真でが色を添える。 劇の部分は控えめだが、圧巻は韓国の音楽グループ、アンサンブル・シナウィ。伝…

もらとりあむ

テレビを見て、漫画を読み、食べて、寝る。居心地がいいようで、よくはない。家事をしようにも、こだわり好きの父親がうるさいし、職を探そうにも、売り物がない。 『もらとりあむタマ子』(日本、山下敦弘)のヒロインは、厄介だが、共感を呼ぶキャラクター…

アニメを生む世界

アニメは、特殊な体験をもとに生まれるわけではない。異界を舞台にするにしても、同じことを繰り返す日常の観察から、変化するものとそうでないものとを感じ取ってこそ、世界の構築や描写に活かせるのだ。 『夢と狂気の王国』(日本、砂田麻美)のスタジオジ…

生死の境界線

ぼけることで見える世界もある。生死の境界線がなくなったとき、死者が目の前によみがえるのだ。 『ペコロスの母に会いに行く』(日本、森崎東)は、認知症の母と介護する息子の交流を、緩い演出で、ほのぼのと描いている。

存在意義

経済力の衰退した日本は、海外援助活動の停止を決定する。青年会協力隊の訓練所に赴任していた青年たちは、先のない状況の中、それでも自分たちの存在意義を問いつめていく。 時代や立場によって、援助とのかかわり方は異なるが、青年団『もう風も吹かない』…

時間の経過

夫が刑務所に入り、5年間、妻は一人で4人の子どもを育てる。ときどき面会しては、束の間の時間を楽しみ、出所を楽しみに待つが、いざ刑務所を出て、家族と暮らすことになった途端、夫は……。 劇的要素を排した『いとしきエブリデイ』(英国、マイケル・ウィン…

英雄を支えるもの

黒人初の大リーガー、ジャッキー・ロビンソン。 『42 世界を変えた男』(米国、ブライアン・ヘルゲランド)は、彼を主人公にしつつ、彼を支えるGMやチームメイトなど、周囲の生き様を描いている。 才能を認め、格差を変え得る余地が、永久欠番の英雄を作った…

追い込まれて

母を失い、新天地に引っ越した父と娘。喪失感から脱却できない二人は、土地になじめず、職を失ったり、いじめに遭ったり……。娘を失踪に追い込んだ同級生に、父は復讐する。 いかにも悲惨な筋立てだが、『父の秘密』(フランス・メキシコ、マイケル・フランコ…

すべて映画

『終わりゆく一日』(スイス、トーマス・イムバッハ)は、チューリッヒのスタジオ付近から見える15年間の風景と監督宛の留守番電話を再構成した私的フィクションだ。 顔を見せず、声も出さない撮影者の人生の変遷と家族や知人とのかかわりが、美しく先鋭的な…

永遠のドラマ

古風な純愛、不変のトラウマ……。 『潔く柔く きよくやわく』(日本、新城毅彦)は古典的少女漫画のアイテムを使いつつ、大切なものを失ったまま、残された者の生命を支援している。 災害後であれ、災害前であれ、この種のドラマは、永遠に存続するのである。

書くことの持続

小説をひとつ書くのはそれほどむずかしくない。優れた小説をひとつ書くのも、人によってはそれほどむずかしくない。簡単だとまでは言いませんが、できないことではありません。しかし小説をずっと書き続けるというのはずいぶんむずかしい。(村上春樹「職業…

危険でないプロット

友人家族をモデルに皮肉な小説を書く高校生と、彼を指導する国語教師が、小説に引きづられて、自分の立場を危うくしていく。 『危険なプロット』(フランス)は、フランソワ・オゾンらしく、辛辣で凝った映画だが、小説ならばありがちの設定だ。教師と生徒の…

歴史の真実

貧民に対する牧場主たちの横暴を描いた『天国の門』(米国、マイケル・チミノ)。 爽快感やロマンティシズムを裏切り、次々と救いを排除していく展開は、1981年公開当時の興行的な失敗と制作会社の倒産を納得させるものである。 主人公以外、だれもかれもが…

焼き直しの切り口

少女時代に焦点を絞った『おしん』(日本、冨樫森)は、現代人にも共感できる成長物語だ。 運命の陰惨さは控えめだが、新鮮な切り口は、既成ドラマの焼き直しに様々な示唆を与えている。

絵画的世界

手足の自由がきかない中、絵筆を取り続けるオーギュスト・ルノワール。 絵に情熱をささげる一方、息子ジャンやモデル、使用人たちとのかかわりは、決してきれいごとで済ませられるものではない。 だが、『ルノワール 陽だまりの裸婦』(フランス、ジル・ブル…

小説を書く意味

綿矢 書いているうちに、自分の考えている事以外のことも小説に入ってきたりするから、実は考えていること以上に言語化できるようなところがあって、実際に話したり他のやり方では表現できないことも、文章ならできるという人は小説家に多いように思います。…

なること

金が絡むが、金だけではない。情が絡むが、情だけでもない。 『そして父になる』(日本、是枝裕和)の男は、病院による子どもの取り違えが発覚し、息子の交換を迫られる。 血のつながりだけにこだわる男が、長年育てた子を手放すとき、つながりだけでは割り…

滅びゆく世界

余談だが昨今ファストフード店や量販店の冷凍ケースや冷蔵庫の山と積まれた食品の上でその店に就労する若者が寝そべり、You Tube に投稿し話題になっている。これをテレビ評論家などは若者のモラル低下、質の悪いいたずらと一蹴するが、私には無保証、低賃金…

ナンセンスの構造

五反田団『五反田団の朝焼け』(アトリエヘリコプター)は、サークル同士の勢力争いと男の失恋を交錯させた喜劇だ。 ナンセンスに徹することで、現実と妄想を縦横に拡充させた構造が、くっきりと見えてくる。

古風な物語

血のつながりも、性の衝動も、『共喰い』(日本、青山真治)の世界は、あまりに古風だ。 だが、古風であるがゆえに、物語への郷愁を誘うのである。

ゾンビの感情

定番のゾンビ物とは違う。 『Miss ZOMBI』(日本、SABU)は、人が感情を失い、ゾンビが感情を得る。 ゾンビと化した子どもは、救ってくれた女ゾンビと共に逃げる。狂人と化した母に追われたからだ。母が自死し、ゾンビとして再生したときは、彼女のもとに戻…

アクセスカウンター