2008-06-01から1ヶ月間の記事一覧

原風景

『森山大道展』(東京都写真美術館)のモノクロ写真は、忘れられた原風景を鮮明に呼び覚ます。 十年も二十年も前にあった風景など、すでに誰ひとりとして克明には憶えていないはずだ。変わったことすら憶えていないほど、人間は目の前の風景をしたたかに日常…

グローバリズム

夫婦間のもつれを描くとなると、得てして、限られた人間の小さな世界に収めてしまいがちだ。けれども、『ぐるりのこと。』(日本、橋口亮輔)は、夫が法廷画家として、猟奇殺人犯など、様々な被告人を見つめることで、夫婦だけの世界から、愛憎劇の視野を広…

歯止め

復員後に荷物を盗まれ、自爆自棄で強盗に転落した男と、踏みとどまって刑事になった男。境遇が似ていても、自分に歯止めをかける意志があるかないかで、運命は変わる。 戦後の対照的な人間を描き分けた『野良犬』(日本、黒澤明)は、きわめて現代的な映画で…

死刑の始末

死刑執行時の感触を思い出し、男は旅先で嘔吐する。 『休暇』(日本、門井肇)の主人公は刑務官だ。二階から落ちてきた死刑囚の体を支え、首吊りを手助けする。激しく動いていた受刑者の体が、やがて止まった。 死刑とは、書類のやり取りや感情の提示だけで…

男社会

……池田小学校事件、犠牲者はひとりだが無差別な、いわゆる「誰でもよかった」事件、海外の例を含めて、すべて犯人は男でしょ。これは男性特有の犯罪なのだ。……卓袱台返しのように、八つ当たりが公然と許される歴史、文化は女には無い。……彼らはなぜ、多くの…

窓際文学

文芸作品の不作が叫ばれるのは、今に始まったことではない。吉岡栄一『文芸時評 現状と本当は怖いその歴史』(彩流社)は、正宗白鳥や小林秀雄らが文芸時評を担当していた頃でさえ、文学悲観論が常態化していたことを明かしている。 それでも、純文学は小説…

夢も希望もないようでいて…

高校を卒業して以降、就職どころかアルバイトさえしたことがなく、大学、専門学校、予備校などへ通いもせず、つまり何もしていないと呼ぶ以外にない状態が長く続いた。……焦りや不安といったものは、一切覚えたことがない。なんとなく、この先どうなるんだろ…

普遍性

この物語のそもそもは、私自身が母親に結婚しろ、結婚しろと言われて困っていた頃、締め切りが迫っても何もアイディアが出ないときに、せっぱつまって、 「結婚しろといわれて困っている女の子のスカッとする話を書いてみよう」 みたいな火事場の馬鹿力的発…

ハードル

自己模倣するようになったら終わりだと思うんだよね。人からは全部同じに見えても、いつも自分は闘っていて、以前描いたものを越えないと意味ないから、どこかで見たような感じに思えたら、途中まで書いてても消しちゃう」(『STUDIO VOICE』7月号―奈良美智…

魔術の種

舞台上に死霊をよみがえらせるアイゼンハイム。作り事のショーを楽しませるだけの単なる魔術師かと思いきや、『幻影師アイゼンハイム』(米国・チェコ、ニール・バーガー)の結末は、現実の世界を変えるべく、巧妙で、痛快などんでん返しを用意している。 観…

武器としての想像力

世界的規模では68年世代とは何であったか。それは二度の世界大戦をもたらした「戦争と革命の20世紀」(レーニン)の前半に怒った若者たちが、「嘘をつくな」と街頭に出た年であった。ベトナム戦争が米国の「嘘」であり、ソ連型社会主義が「嘘」であることを…

癒しと怒り

本来の癒しは、本心を小手先の手段でごまかすことではない。 ここ十数年、日本で広がっているのはすべてを心の問題とする考え方で、これを私は心理主義と呼んでいる。自分の心さえなんとかすれば、幸せに生きていけるという感覚だ。学校や会社でいやな事があ…

怪物たち

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(米国)の山師プレインビューは、石油採掘でもうけるために、人をだますこともいとわない。その言動は、日を追うごとにエスカレートし、ついには殺人をも重ねる。 実際、ホラー映画だと捉えているよ。……僕自身、プレインビ…

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