2021-03-01から1ヶ月間の記事一覧

怒りは去ったのか

2020年11月の段階で、米国を代表するジャーナリスト、ボブ・ウッドワードは、トランプと政界関係者の厖大なインタビューをもとにした著書『RAGE 怒り』(日本経済出版)で、トランプの業績を判断し、重職には不適格と結論付けている。説明能力のないトランプ…

師匠説

エッセイでもなければ、評論でもない。『会いに行って 静流藤娘紀行』(講談社)は、師と仰ぐ藤枝静男に笙野頼子がささげた「師匠説」だ。 志賀直哉的な強さのない作家。残された小説や手紙からは、男性性に甘んじたり、戦争を肯定する勇ましさはない。性差…

奇妙なホラー

得体の知れないがゆえに底知れぬ怖さをもたらす警備員。理由不明な殺人を犯す一方、女性社員の落としたイヤリングを身に着ける。冷酷な殺人鬼ではあるが、ビルの社員全員を残さず始末するような徹底さはない。そんな混とぶりも、黒沢清流の不可解さと言えよ…

すばらしき堅気

佐木隆三の原作執筆時よりも、現代のヤクザは、『すばらしき世界』(日本、西川美和)に描かれるように、より生きづらい立場にある。ヤクザ的な世界でなければ、肌に合わず、自分を活かせぬ人々もいるはずだ。 堅気の人との境界線を引き、すみわけをすればい…

戦死の意味

戦後の八月についてのインタビューで、加藤典洋は、吉田満『戦艦大和ノ最期』に書かれた大尉の言葉を取り上げる。 意味のない作戦で死ぬことにどんな意味があるのか、話し合う若い士官たちに向けて、大尉は告げた。進歩のない者がどうなるか。身をもって無意…

彼女の決断

『わたしの叔父さん』(デンマーク、フラレ・ピーダセン)の女は、叔父と二人暮らしで酪農を営んでいる。叔父は体が不自由で、まだ若い姪は、いずれは自立して家を出るというのが通常の展開だろう。ところが、この映画では、恋人が彼女に言い寄ったり、獣医…

マスクをつけるとき

家族以外と話すときは、マスクをつける。宮藤官九郎・脚本『俺の家の話』(TBS)は、ドラマであっても、もはやそんな状態だ。とはいえ、この家族には、金目的の偽装婚約者や、腹違いの子どもがいて、家族とは何かを一層考えさせる。能楽師の身分を偽ってプロ…

公と民

公営で行なうべきものを民営にしたらどうなるか。救急隊を営む一家の日々を追う『ミッドナイト・ファミリー』(米国・メキシコ、ルーク・ローレンツェン) は、救急車の少ない都市においては、民営の救急隊も必要である一方、ひずみも招かざるを得ない現実を…

時代の流れ

昨今では、終電を逃しても飲み屋でだべったり、街の中で元恋人の素顔と再会したりといったような体験は、もはや成立しにくくなっている。2015年から2020年の時代を背景に男女の恋愛の誕生から喪失を綴る『花束みたいな恋をした』(日本、土井裕泰)の楽しみ…

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