2012-01-01から1年間の記事一覧

増殖するアート

子ども時代のポスター画を、大人のひねりとデフォルメによって、ブラックユーモアに満ちた風刺画に仕立てた「ポスター」。作者の生誕以降に就任した多数の首相の顔写真が画面に映し出される「ゲームの国」……。 会田誠のアートは、悪意と遊び心に満ちている。…

地の底から

元AV女優にして漫画家の卯月妙子。慢性的な自傷癖と妄想症。ついには、歩道橋から飛び降りる。 生還後、鏡に映っていたのは、片目が骨ごとずれ、鼻筋がなくなり、まっ平になった顔だった。 地の底まで落ちれば、これ以上落ちることはない。あとは這い上が…

虚構

サンタクロースがいるのか、いないのか。 人は、彼の存在をまるっきり信じるわけでもなければ、まるっきり信じないわけでもない。 青年団『サンタクロース会議』(こまばアゴラ劇場)は、虚構と人間の距離感を軽妙に描いている。

言葉と運動

「演劇人の入り込み」が出来たら、そこに途中で「失速」しないで続けたら、演劇は演劇となるのである。このような、いわば「運動神経だけで書く戯曲」というものを、私は最近めざしている。(別役実『ことばの創りかた――現代演劇ひろい文』論創社) 運動が続…

素材の広がり

自作について、元になる体験を得々と語り、読解の枠組みとして提示したがる作家は、ほとんどの場合、それ以上の物ではないと考えるべきでしょう。(佐藤亜紀『小説のストラテジー』ちくま文庫) 多様な読みを可能とする作品は、書き手自身が素材の広がりを信…

小人のいる世界

職場でも家庭でもさえない男が、伝説の小人探しをきっかけに、周囲を変化させる。 連続ドラマ『ゴーイングマイホーム』(フジテレビ系)の脚本と演出は、是枝裕和。誇張や衝撃性に頼ることなく、夢を託せる世界に観る者を引き込む。 毎回披露される料理も楽…

母なるもの

単純なスパイアクションは成立しない現代。 『007 スカイフォール』(米国、サム・メンデス)では、女指導者のMを母のように扱いながら、ボンドと敵が対決する。 この路線が続くわけではない。Mは死に、次のMが誕生する。 後任は男だ。

人生肯定

娘夫婦と両親。各々別れて、新しいパートナーとの生活を夢見るが、明暗は分かれる。 『恋のロンドン狂騒曲』(米国・スペイン)は、ウディ・アレンらしく、教訓を交えた悲喜劇。 とはいえ、いかなる失敗や困苦がもたらされようとも、自分流を貫き、進んで受…

人間は多様

震災はもっといろいろな角度から描かれるべきです。たとえば、同情されたくない老人。一人だけ生き残った人の、理由のない罪障感。人々の不幸につけ込んだ小悪党の貧しさと孤独。近づけなかった異性と避難所の一つ屋根の下で眠る少年のときめき。立ち入れな…

未完であること

「僕の作品はつねに未完成」と横尾は言う。「疲れたから、飽きたからと筆を置き、完成させる間もなく次の作品に入る。ある時ふと、未完の部分を完成させてみようと同じモチーフから描き始め、展開させてみたりする。けれど、またこれも未完。その連続で反復…

人類の起源

アパートで共同生活する男女8人が、掴み合い、性交し、飯を食べ、眠る。 ポツドール『夢の城 - Castle of Dreams』(東京芸術劇場)では、言葉を話さず、猿のような仕草で過ごす人間の生態が実演される。 人の声の代わりに音を発するのは、車・ゲーム・テレ…

演劇という文化

実作の現場をメインにとらえた『演劇1』から、『演劇2』(日本・米国・フランス、想田和弘)では、焦点を劇団の経営や演劇の公共化にまで広げている。 演劇という文化が、生活に密着しているのであれば、地方や海外への進出、政治家他スポンサーとの交流も…

それでもアナタがやっている

『終の信託』(日本、周防正行)は、医師と患者のプラトニックな愛情ドラマかと思いきや、終盤、一転。 非情な検察官が、エリート医師の施した尊厳死を殺人だと断言する。医師の抗弁には一切、耳を貸さない。 最初に結論ありき。反論は認めない。特権的地位…

兄弟の甲子園

兄に対する複雑な感情。高校時代にやり残したことへの悔い。 そんなわだかまりが、あだち充の作品には結晶している。

映画ではない映画

反体制活動をとがめられて映画製作を禁止されたジャファル・パナヒ監督。『これは映画ではない』(イラン)では、盟友モジタバ・ミルタマスブの協力を得て、自宅マンションでの軟禁生活を撮影。役者を使うことも、屋外に出ることもままならぬ中、旧作の再見…

どん底でも

工場経営に失敗した男、投資詐欺にひっかかった息子、回収に必死の金融業者。 金に悩まされる三人の男たちが、醜態を見せながらも、生きる気力は失わない。 二兎社『こんばんは、父さん』(世田谷パブリックシアター)は、どん底の状態でも希望を捨てずに生…

歴史の物語

「歴史は素晴らしい物語の情報源であり、現代と関係しているものだ。」とレッドフォードは言う。「もっと興味深いのは、いったん歴史の中に浸り込むと、一般的に認められ語られてきたことが、必ずしも“本当”の物語ではないことに気づく事だ。知っていると思…

人間の存在

青年団『アンドロイド版 三人姉妹』(吉祥寺シアター)では、ロボットが役者としてだけでなく、戯曲の展開上も、重要な役目を担っている。ロボットゆえに、忘れていない記憶。場をわきまえずに発してしまう言葉が、その場の人間たちに亀裂をもたらす。 ロボ…

外部

戯曲を進行させていくには、それが空間であれ、時間であれ、「外部」もしくは「他者」の存在を導入できる状況を用意することが必要なのである。(想田 和弘『 演劇 vs. 映画――ドキュメンタリーは「虚構」を映せるか』(岩波書店) 内輪だけの会話ならば、外…

紛争の構図

世界的建築家の設計した邸宅に住むデザイナーが、隣人の奇行に悩まされる。 『ル・コルビュジエの家』(アルゼンチン、ガストン・ドゥブラット、マリアノ・コーン)の隣人は、なれなれしくて鈍感。対するデザイナーも、尊大で嫌味な人物だ。 壁の穴開けをめ…

小説を牽引するもの

ある時、小説に何かの動きがあると、描写以外の豊かさがもたらされることに気が付いたんです。その「何か」がドラマであってもいい。物語に小説が支配されるのは嫌だから物語、ドラマそのものを書こうとするのではなくて、物語あるいはドラマと呼ばれるもの…

自分が主役で、自分が最後に殴りこんだりすると、映画がすごい小型化して、単なる主役とその周りに付随した奴のストーリーになるんだけど。主役を薄くしちゃって、周りを広くすると、映画自体が大きくなるっていうかね。(北野武『物語』ロッキング・オン) …

終えるために

ストーリーができる。ネームが入る。だが、これから膨大な量の絵を描かなくてはならない。 枚数の多い原稿を見て、漫画家は不安になる。 アシスタントからアドバイスを受ける。 「ただひたすらかいていればいつか終わることですよ」 一週間ほど、書き続ける。…

実作の持続性

「これを撮ったら死んでもいい」なんて思ったら、荷が重すぎて精神的にもビジネス的にも必ず行き詰まってしまう。むしろ「とにかく進めば、その先のステップがある」くらいに考えたほうがいい。未来における作品の精度よりも、未来のために自分の今を大事に…

牡蠣フライ

自分自身について書くのは不可能であっても、例えば牡蠣フライについて原稿用紙四枚以内で描くことは可能ですよね。だったら牡蠣フライについて書かれてみてはいかがでしょう。あなたが牡蠣フライについて書くことで、そこにはあなたと牡蠣フライのあいだの…

テロの代償

国際テロリスト、カルロス。大義名分のもと、世界中で過激な活動を続けた。 活動、飲酒、セックス。『カルロス』(フランス・ドイツ、オリヴィエ・アサイヤス)で描かれる彼は、苦悩のあとを見せない。 だが、実演された肉体の変貌ぶりは無視できない。過度…

ドラマの誕生と結末

元大学教授がデリヘル嬢の女子大生をかばうために、彼女の婚約者に嘘をつく。 関わるべきでなかった人間が、関わったために、ドラマが生じ、思いがけぬ事態に陥る。 『ライク・サムワン・イン・ラブ』(日本・フランス、アッバス・キアロスタミ)は、ラスト…

夢を売る

結婚詐欺にだまされても、女は悲観するわけではない。だました男には事情があったのだ。まだ自分を愛しているはずだと思い込んで、うっとりする。 最初は罪悪感のあった男も、だんだん無抵抗になっていく。あんな善人をだましていいものかと躊躇することもあ…

言葉の怖さ

文章というのは怖いものです。とても鋭い武器になります。時として相手を傷つけるし、自分をも傷つけます。扱いには本当に気をつけた方がいい。言葉に関しては僕はプロだけど、その怖さは身にしみて知っています。(「村上春樹メールインタビュー」『ダヴィ…

世界が焼き尽くされる前に

CG全盛の時代、ミニチュアや小道具を主体にした特撮は、役目を終えつつある。作られたものは壊され、ノウハウだけが残る。だが、蓄積した職人芸と奇抜なアイデアは、想像の世界を形作るうえで不可欠だ。 今日では名前すら耳にする機会のないマイナーな特撮…

アクセスカウンター