共に楽しむ

魚を愛するが、さばいて食べるのも好き。そんなミー坊が大人になり、一人で生活するまでが、『さかなのこ』(日本、沖田修一)ではコミカルに描かれている。ミー坊を奇異に思う人もいる一方、あたたかく見守る人もいる。子どもの頃は冷ややかな態度だったク…

主軸の揺らぎ

前夫との間に生まれた子どもが、義父母を招いたパーティーの際に溺死してしまう。『LOVE LIFE』(日本、深田晃司)の主軸は、子どもを失った夫婦の危機だが、それがどんどん揺らいでいく。息子夫婦と距離のある義父母が近所から引っ越し、妻の前に、ろうあ者…

映像の功罪

映画監督は、表現ができればそれでよかった。時代によって、映像が戦争にかかわることもあれば、平和を訴えることもある。 『映像の世紀バタフライエフェクト「映像プロパガンダ戦 嘘(うそ)と嘘(うそ)の激突」』は、イメージを喚起する映像のからくりと、そ…

アートの本道 

キャプションが作品の横にはなく、別刷りとなっている。ロッカーの石ころや壁の片隅に横たわるネズミ、床上の丸まった紙がいったい何なのか。何の変哲もない物からギャラリーの思考を刺激する『ライアン・ガンダー われらの時代のサイン』(東京オペラシティ…

刑事と音楽

旧時代的な言動をとがめられて、警察音楽隊に異動させられた熱血刑事が、少年期の演奏体験を思い出して、人との付き合いを変えていく。『異動辞令は音楽隊!』(日本、内田英治)は、音楽隊での悪戦苦闘と、刑事時代に手掛けた未解決事件を絡ませたことに、…

映画の解放

広大な牧場を営む一家が、人の命を奪う巨大な物体を目撃する。父を失った兄妹は謎の解明のために動画を撮影しようとするが……。 SFとも、サスペンスとも言い難い『NOPE ノープ』(米国、ジョーダン・ピール)。定番の展開やカタルシスからは、ひたすら遠い。…

純粋の痛み

『希望と絶望 その涙を誰も知らない』(日本、竹中優介)に記録されたのは、2019年12月から2022年3月までの日向坂46の密着記録だ。コロナ禍で途絶えたライブ活動。心身の異変。過剰労働の疲労。常に必死であることをコンセプトにされたアイドルの日々は、彼…

休暇の時間

男二人組が、相乗りアプリで知り合った青年と共に、南フランスの田舎町へ。『みんなのヴァカンス』(フランス、ギョーム・ブラック)は、恋人のけんかや恋敵との衝突、人妻との交流がゆるやかなタッチで綴られる。笑いがあり、哀しみがある。彼らの世界に、…

量産型の楽しみ

汎用キャラクターのプラモデルを組み立てることで生き方のヒントを得る女たち。『量産型リコ』(テレビ東京)のヒロインは、イベント会社の所属部門存続も、自身の恋愛成就もままならないが、量産型の視聴者にとっては、そのほうがいい。派手な成功もない分…

抑圧の記録

2019年、中国支配が進み、自由を奪われた香港で、若者を中心にした大規模なデモが起きた。非暴力の参加者に対し、警察は暴行を加え、参加者は監視対象になり、自由を奪われた。『時代革命』(香港、キウィ=チョウ)は、縦横無尽のカメラワークと、参加者へ…

絵と科学

絵を描く科学者。『かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと』(ザ・ミュージアム)には、科学者としての厳密な姿勢を貫きつつ、ユーモラスで親しみやすい本を作り続けた作家の絵が並んでいる。

教育のしっぺ返し

効果がすぐには見えないため、為政者に利用されやすく、もし実害があれば、将来、確実に国の基盤を脆弱にしかねないのが、教育である。『教育と愛国』(日本、斉加尚代)では、ある種の勢力が教育の現場に介入したり、教育関係者を翻弄する現象が、証言され…

カメラと感情

廃トンネルで暮らす母が、幼い娘と地上に出た。娘に生きていくことを望むならば、彼女を手放すしかなかった。『きっと地上には満天の星』(米国、セリーヌ・ヘルド&ローガン・ジョージ)は、地上に出るまでの娘と、地上に出てからの母との視点が、カメラの…

埋もれた開拓者

ただ映すだけではない、演出や編集の加えられた映画。劇映画の始祖、アリス・ギイの功績が再評価されたのは、後年の丹念な研究によるものだ。『映画はアリスから始める』(米国、パメラ・B・グリーン)では、彼女の公私にまたがる軌跡を証言や映像によって浮…

ジャンルの広がり

『特別展アリス ─へんてこりん、へんてこりんな世界─』(森アーツセンターギャラリー)に展示されるのは、原作に関する資料だけではない。『不思議の国のアリス』から派生した絵画、映像、ファッションなど、ジャンルの広がりを一望させ、長年にわたって世界…

戦後の痛み

銃撃戦や前線だけが、戦争の舞台ではない。『戦争と女の顔』(ロシア、カンテミール・バラーゴフ)は、PTSDをかかえる看護師と、帰還した慰安兵という二人の女が、傷心と向き合いながら、戦後の軍人病院で勤めを続けている。唯一の救いだった息子を失った女…

彼女に見える風景

世間からずれている少女そのものではなく、周りの家族だけが壊れていく。『こちらあみ子』(日本、森井勇佑)は、あみ子にしか見えないはずの風景が、文字ではなく、映像として、くっきり見える。

戦争の傷跡

命を助ける役目にある医師が、捕虜にされた後、拷問された同胞の安楽死に加担する。身柄を解放されても罪の意識が消えることはない。家族と過ごしていても、苦悩は深まるばかりだ。 非道な戦争の犠牲者といっても、傷跡は多様であり、『リフレクション』(ウ…

鎮魂の記録

借金をしてまで、なぜ母が北朝鮮の息子たちに仕送りを続けるのか。『スープとイデオロギー』(韓国・日本、ヤン・ヨンヒ)は、監督自身が、母から済洲島事件の悲痛な体験を聞く。病で記憶を失いつつある母を記録することは、石碑にさえ名を刻まれることなく…

進行形

赤ん坊を手放す娘も、買い手を見つけるブローカーも、追う刑事も、それぞれの事情がある。『ベイビー・ブローカー』(韓国)は、疑似家族や命の意味を問い続ける是枝裕和の集大成だが、既成の価値観を越えるという意味では、進行形の作品である。

プレスリーの価値

ロックスターの生涯を語るのは、彼自身ではない。『エルヴィス』(米国、バズ・ラーマン)の語り手は、彼を食い物にした悪徳マネージャーだ。辛辣な悪人と比較されることで、プレスリーの純粋な人間性や、歌の魅力が、いっそう浮き上がる。 人種差別も既成感…

開かれた青春

1970年代を舞台にした定型の青春物語と思いきや、ポール・トーマス・アンダーソンが手掛けただけあって、『リコリス・ピザ』(米国)は、どう転ぶかわからない、奔放な喜劇に転換されている。美談美女ではなく、年齢差のあるさえない男女が、強烈な脇役たち…

人類の願望

75歳になれば、死を選択できる近未来というSF的な設定でありながら、『PLAN75』(日本・フランス・フィリピン・カタール、早川千絵)のタッチは、ひたすらドキュメンタリー調だ。特異なキャラクターも、劇的な展開も、存在しないからこそ、死の在り方を思索…

世界は共通

ドキュメンタリー『FLEE フリー』(デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フランス、ヨナス・ポヘール・ラスムセン)は、証言者を保護するため、アニメにされた。アフガニスタンでは人権が無視され、迎えられたロシアでは腐敗した警察に搾取され、弱小国の…

才能は集えど

室町期の能楽師をミュージカルアニメに昇華した『犬王』(日本、湯浅政明)。絵柄といい、楽曲といい、歌い手といい、強者ぞろいだが、それぞれの才能が融合したとは言い難い。同じ素材を使って、ジャンルを分けた方が、表現の印象が明確になったろう。

わくわく展示

スケッチを大きくして見せたり、作者が好きなグッズを置いたり、遊べる動画のコーナーを用意したり……。作者の脳内のようなわくわく感を視覚化した『ヨシタケシンスケ展』(世田谷文学館)は、企画者の遊び心も感じられる。

青年の行く末

何をやるのか、方向が定まらない青年。周りには、口下手ながらも思いやりのある親たちや、彼を放任する仲間たちがいるが、『冬薔薇(ふゆそうび)』(日本、阪本順治)は、決して人情話には傾かない。 彼の羅針盤は、両親や去った人々ではない。新天地に向か…

クーデターの現実感

裕福な家の白人カップルが豪邸に各界の名士を招く。優雅な結婚パーティは、突如暴徒に襲撃され、富裕層は金品を得るための人質にされる。貧しい階層の人々が、使用人と共謀したのだ。 世界の縮図とも言うべき『ニューオーダー』(メキシコ・フランス、ミシェ…

私的なオリンピック

『東京2020オリンピック SIDE:A』(日本、河瀨直美)では、競技の勝敗自体よりも、国籍や家庭生活、抗議活動といった、アスリートの報道では重視されなかった側面に重心を置いている。出産後の競技の両立を日本と海外で対比させたのは、河瀨自身の私的テーマ…

現役パイロット

年を取って更新の指南役に徹する選択肢もあるが、『トップガン マーヴェリック』(米国、ジョセフ・コジンスキー)で敏腕パイロットのマーヴェリックを再演したトム・グルーズは、現役のパイロット役として、前線でのアクションを貫いた。共感として若手を率…

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