2011-05-01から1ヶ月間の記事一覧

言葉の核

一九七二年、朝日ジャーナルの記者だった川本三郎は、自衛官刺殺事件取材後の証憑隠滅で県警に逮捕され、新聞社を解雇された。 失態の負い目は、評論家に転じてからも、ずっとついて回った。 映画のこと、文学のこと、あるいはマンガのこと、さまざまな評論…

音の芸術家

テレビも映画も効果音があって当たり前という時代では、音響技師にスポットが当たることは少ない。 鉄腕アトムの足音などで知られる大野松雄は、音の魔術師であり、芸術家だ。 ひらめきによって音を創造し、現場と衝突しては場を去っていく。 彼は今どこにい…

バランス

『ブラック・スワン』(米国、ダーレン・アロノフスキー)では、バレリーナだけではなく、彼女の母も演出家も、狂気を持ち合わせている。 異常さを有しながらも、精神のバランスを保てば、生き続けることができる。 ヒロインは、舞台上で境界線を越えてしま…

空間

下町の印刷所の一家が、謎の男を家に住まわせたことで、均衡を崩していく。 『歓待』(日本、深田晃司)は、劇団・青年団のスタッフ・キャストを中心に、演劇的素材を演劇的空間で処理することで、人間喜劇を実感させる。 だが、男の脅威は、映画の空間にま…

戦争と芸術

悲惨でありながら美しく、冷徹でありながら情熱を内に秘めている。 戦争映画でありながら芸術映画であるというのは、人道という面からすれば、危険な要素もあるが、『戦火のナージャ』(ロシア)は、ニキータ・ミハルコフの手腕によって、危うさから逃れてい…

依存者

アニメ『ファンタスティックMr.FOX』(米国・英国、ウェス・アンダーソン)の人形たちは、愛らしいというよりも、奇妙。 人間に居場所を奪われた彼らが、独立して生きるというのではなく、人間の食料を奪いながら生き続けるというのも、不気味なリアリティー…

事故の責任

たとえばある工学者がある構造物を設計したのがその設計に若干の欠陥があってそれが倒壊し、そのためにひとがおおぜい死傷したとする。そうした場合に、その設計者が引責辞職してしまうかないし切腹して死んでしまえば、それで責めをふさいだというのはどう…

終わらない日常

ドキュメンタリー『ショージとタカオ』(日本、井出洋子)では、強盗殺人犯として逮捕され、29年後に仮釈放された二人の男が、仕事を見つけ、日常生活に復帰する。 規律を遵守していれば、食うに事欠かない刑務所内と違い、外の世界は、自らの責任で活動し、…

アクセスカウンター