2019-01-01から1年間の記事一覧

自己責任がすべてか

自助努力では、どうにもならない。まじめにこなせばこなすほど、歯車の狂うときもある。『家族を想うとき』(英国・フランス・ベルギー、ケン・ローチ)は、過酷で低賃金の仕事に就いたがゆえに、バラバラになっていく一家の物語だ。ここには、自己責任とい…

何が変わろうとも

『幸福路のチー』(台湾、ソン・シンイン)は一人の女性の現在と少女時代をアニメならではの時空処理で絵にすることで、変化の激しい台湾の現代史を浮かび上がらせる。 喜びもあれば、悲しみもある。幸福は長続きするわけではない。達観から見えるのは、絶望…

本来の生物

血なまぐさい殺戮場面を含め、『ゾンビ』(米国・イタリア、ジョージ・A・ロメロ)のタッチは、ホラーというより、ギャグ調も強い。ゾンビに追い詰められた者は、人間として生き残るのもいいが、食われてゾンビになる道もあろう。 格闘の現場となった百貨店…

プロレスのチャンス

犯罪からの更生も、夢の実現も、すべてプロレスにあった。 『ファイティングファミリー』(米国、スティーブン・マーチャント)は実在のプロレス一家を描いたヒューマンストーリー。プロレスは、客を楽しませるだでなく、人生をかけた人々にチャンスを与える…

男の半生記

妻子持ちの運転手が、マフィアお抱えの冷酷なヒットマンにのし上がるが、栄誉の影で多くのものを失なった。回想形式で綴られる『アイリッシュマン』(米国、マーティン・スコセッシ)は、凡庸な家庭人とやむことなき抗争社会の狭間を生きた男の半生記だ。

お家の壊滅

経済合理性を考慮すれば、藩主の不始末も、家臣の金遣いも、計画性のなさは否めない。討ち入り時のやりくりだけはなんとか帳尻を合わせたが、その後の成果は時代を超えたものとは言い難い。当時の価値観の中でだけ、評価を得たものと言えるだろう。 『決算!…

ジャーナリストの本道

記者クラブの慣習にどっぷり浸かった政治部の記者よりも、部外者である社会部の記者の方が、政治家に聞くべきことを聞けるのだろう。『i 新聞記者ドキュメント』(日本、森達也)は、政治家らに切り込む望月衣塑子の精力的な取材活動を追う。 市民に代わって…

ミイラのメッセージ

形状の違いはともかく、死後の身体を残そうという慣習は世界各地にあった。肉体は放置しておけば消滅するだけだ。実在の証明は、魂とは別に体をこちら側の世界に残しておくほかない。体は生前と異なるが、後世に何らかのメッセージを残すことはできるのだ。

濃密な家族

暴力をふるう父を殺して服役した母が、15年後に帰って来たときの子どもたちのとまどい。『ひとよ』(日本、白石和彌)は、極端な人間たちが衝突する濃密な家族劇だ。

職業の意義

看護学校で学ぶ生徒は、人種も年齢も様々だ。実習先でもトラブルは尽きないが、カウンセラーが親身に悩みを聞いて助言する。『人生、ただいま修行中』(フランス、ニコラ・フィリベール)は、生徒たちの姿を通じて、あらゆる職業人の存在意義を再認識させる。

遺作の映像詩

29歳で命を絶ったフー・ボーの遺作『象は静かに眠っている』(中国)は、死の匂いと希望の灯が両立する。 同級生を死なせてしまった少年。母と仲違いする少女。娘夫婦に追い出された老人。家族に疎んじられる不良青年。居場所のない4人が、象のいる街に向か…

ゴッホの生命力

唯一無二の絵も、突然変異で現れたわけではない。『ゴッホ展』(上野の森美術館)では、「ハーグ派」「印象派」の双方を吸収しつつ、独自の画風を確立したフィンセント・ファン・ゴッホの変遷をたどる。短い命の中で大量に描かれた絵は、今日でも生命力を失…

人と獣

人と違う容貌と特殊能力を持つ獣人。『ボーダー 二つの世界』(スウェーデン・デンマーク、アリ・アッバシ)は、出生の秘密を知って自我が芽生える女職員を、リアルな特殊メイクで表現する。 人間と獣の境界線は何か。差異と共存というモチーフを踏まえた今…

救いなき地方都市

犯罪の疑いをかけられた青年や出戻りの男が村八分に遭う。被害者の親類を始め、村人の姿勢は、陰湿で狂信的だ。『楽園』(日本、瀬々敬久)は、追い詰められていく被疑者を殺された少女の友人だった少女の目で、見つめていく。この映画の地方都市に、救いを求…

名曲の継承

ビートルズの曲を知らない世代が増えた現代、『イエスタディ』(英国、ダニー・ボイル)の設定は、不自然ではない。大きな停電の後、ザ・ビートルズの痕跡が世界から消滅した。インターネットを検索しても、彼らを示す語句は一切出てこない。売れないミュー…

道化師の悲哀

『ジョーカー』(米国、トッド・フィリップス)は、サイドストーリーの位置づけをわきまえつつ、独立した物語である。コミックスならではの異様なキャラクターだが、この道化師に奇妙なリアリティーがあるのは、彼が犯罪者に至るまでが実に丁寧に描かれてい…

人生の現実

労働者階級の男女が出会って、結婚。初々しい日々が、年を重ねるにつれて辛辣な展開になる。最期は痛ましい姿で死ぬ。 『エセルとアーネスト ふたりの物語』(英国・ルクセンブルク、ロジャー・メインウッド)は、愛らしい絵の世界に浸るだけの物語ではない。

この世界で生き残るために

高級ホテルで無差別テロが侵入。特殊部隊の救援が遅れ、宿泊客は自力で避難するしかない。ホテルマンたちは、宿泊客を救出するため、献身的な働きをする。 『ホテル・ムンバイ』(オーストラリア・米国・インド、アンソニー・マラス)の事件は実話だ。 格差…

アニメの手ごたえ

伝説のアニメ『太陽の王子 ホルスの大冒険』(日本、高畑勲)では、村人の排他性や、魔女の二面性も、見逃してはならない。アニメだからこそ、より鮮明に刻印できるものもある。この手ごたえが、アニメ制作を今日まで持続させたのだ。

ドラマがドラマであるために

暑苦しい勘違い男の一方的な愛情と、受け止める女のずれた関係。『宮本から君へ』(日本、真利子哲也)は、容易には成立しえないキャラクターをリアルに見せる。 ドラマがドラマであるための快楽が、全編、みなぎっている。

映画は続く

『アド・アストラ』(米国、ジェームズ・グレイ)は、親子2代の宇宙飛行士が地球外で再会するSFの設定を使いつつ、親子の使命観や人類の行く末など、哲学的主題を思索させる。 過去の映画を連想させる場面が随所にあり、映画の連続性を改めて認識させるので…

雄弁な色彩

アニメ『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』(フランス・デンマーク、レミ ・シャイエ)のヒロインは、行方不明の祖父を探すために北極点を目指す少女だ。19世紀のロシアが舞台という古典的題材をシンプルなアニメ画で表現すれば、単調になりかねない…

映像の美学

いわゆる現実の風刺劇ではない。船頭が渡し船に固執し、文明批判を体現するように見せながらも、力点は映画的な空間と映像美の披露にある。 『ある船頭の話』(日本、オダギリジョー)が成立するのは、映像の美学が貫かれている間だけだ。船頭が橋の完成によ…

現代の西部劇

先住民との闘いで英雄だった男が、任務のために宿敵の酋長を護送する。現代の西部劇『荒野の誓い』(米国、スコット・クーパー)は、ひたすらシリアスに徹し、甘いロマンスや爽快な決戦の要素を踏まえつつも、そうはさせまいという断固たる意志が貫かれてい…

音楽の魂

ナチスドイツへの抵抗から始まった斬新なサウンド。『ブルーノート・レコード ジャズを超えて』(スイス・米国・英国、ソフィー・フーバー)は、一時の停滞期からヒップホップを通じてよみがえった名門レーベルの歴史を忠実にたどっていく。 形式を変えても…

悪魔的世界

社会主義崩壊前の農村。金をむしり取ろうとやってきた男たちが、卑俗な農民たちをだまして金を得ようともくろむ。『サタンタンゴ』(ハンガリー・ドイツ・スイス、タル・ベーラ)の製作は1994年だが、エピソードは古典的で、映像は神秘的なモノクロだ。 上映…

天国の造形

下水掃除夫として、安アパートの最上階で暮らす男。乱暴な姉に追い出された少女をかくまったことから、二人に愛が芽生える。ささやかに結婚式を挙げたものの、まもなく戦争が始まり、彼の死を知らされる。本当は生きていたが、視力を失っていた。それでも、…

成果の共有

ロープなしで絶壁を上るアレックス・オノルド。ドキュメンタリー『フリーソロ』(米国、エリザベス・チャイ・バサルヘリィ、ジミー・チン)が見守るのは、ストイックなクライマーだけではない。恋人の存在や仲間の協力は、オノルドの励みになると同時に、精…

映像詩

『聖なる泉の少女』(ジョージア・リトアニア、ザザ・ハルバシ)には、泉が人をいやすと言う伝説が信じられるだけの神秘的な風景がある。まさに映像の叙事詩。

人生セラピスト

セックス・セラピストと言っても、際物ではない。深い見識はもちろん、身体の権利向上にも知見がある。ホロコーストで両親を失ったドクター・ルースは、2度の離婚を経験しながらも、勉強と相談活動を精力的に続けた。 『おしえて! ドクター・ルース』(米国…

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