2019-01-01から1年間の記事一覧

天才の表現

天才ゆえの孤独感。家族にもパートナーにも仕事仲間にも、真に理解されたわけではない。『ロケットマン』(英国・米国、デクスター・フレッチャー)は、世界的ミュージシャン、エルトン=ジョンの熱い思いが、主演タロン=エガートンの見事な歌と演技で、画…

さびれた男

トリミングサロンを経営し、仲間や娘との交流で満ち足りているにもかかわらず、知り合いのチンピラに利用され、いっさいを失う気弱な男。『ドッグマン』(イタリア・フランス、マッテオ・ガローネ)の主人公は、見る者にいら立ちを与えるほど、優柔不断だ。 …

埋もれた個人

19世紀初頭のマンチェスター。活動家の演説を聞きに来た無防備な市民が、政府の騎馬隊に惨殺される。今日では、英国民でさえ、ほとんどが知らない事件の経緯にこそ、民衆のうごめく姿が残っている。 貧困改革を叫ぶ民衆も、安定統治に徹する判事も、個人個人…

正当化のための工作

生き埋めになった男の救出をわざと遅らせ、スクープ記事を書こうとたくらむ新聞記者。 『地獄の英雄』(米国、ビリー・ワイルダー)の工作は、個人ならば異様でも、国家ならば、ありうることだ。戦争正当化のために、わざと攻めさせて世論を操るといった具合…

新鮮な才気

銭湯の殺人。東大卒のフリーター。犯罪生活の癒し。違和感覚える要素を組み合わせ、不可思議な味わいだ。 『メランコリック』(日本、田中征爾)には、新鮮な才気がある。

遊びの空間

遊びとしてのワクワク感は、どこにあるのか。芸術的発想や技巧とは、別のところだろう。

二面性

虚偽の噂を訪問先の女に流され、結婚話も仕事も失った女。復讐のため、相手の恋人に接近して、奪い取ろうとする。 『よこがお』(日本・フランス、深田晃司)で、一番、目を引くのは、理不尽な運命に翻弄されて堕落した主人公の看護師ではない。愛憎を抱いて…

恐竜の謎

研究の対象は、現存するものだけではない。絶滅した生物の謎は、人類の興味を絶やさない。

知を守るために

公共施設としての役割に徹しつつも、資金確保のための試みを怠らない。知の殿堂としての位置にあぐらをかくことなく、企画や予算編成にも細心の注意を払う。 『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』(米国、フレデリック・ワイズマン)は、世界有数の図…

時が経てば

後世の者にとって、過去の世界は遺物から想像するしかない。戦乱のあとも、栄華の極みも、時が経てば、消えてしまうのである。

モノクロの愛

冷戦下のポーランド。亡命したピアニストと、舞踏団に残留した歌手が、国や時代を超えて、関係を重ねる。 すべては、つかの間の幸福。『COLD WAR あの歌、2つの心』(ポーランド・イギリス・フランス、パベウ・パブリコフスキ)は、モノクロでしか成立しえな…

寝たきり歌人

寝たきりで早朝から痛みに苦しみ、排せつさえ、人に任せざるを得ない遠藤滋。助けてもらうには、すべてをさらけ出すしかない。 ベッドの上で35年、生きてきた。大勢の介助者も、彼とかかわることで、生活に張り合いを持てるようになる。遠藤と向き合うには、…

肉体の問いかけ

元夫の老人、娘に子を産ませた父、売春の常連客だった夫。『三人の夫』(香港、フルーツ・チャン)の女は、男たちに振り回されながらも、異常な性欲であらゆる男を凌駕する。 男に支配されそうになりながらも、思うがままにはならない。陸地ではなく、船の上…

理論派の脳内

理論派アニメ監督の発想と製作過程。『高畑勲展』(東京国立近代美術館)は、企画書の展示など、工夫を凝らされた催しだ。 常に新しい試みに挑み、熟達なスタッフの技能を最大限に取り入れ、驚くべき芸術を編み出した異才。時間と予算の超過で会社ともめたや…

希望的な展開

この世界は、大人の常識によって秩序が保たれている。どうしようもない事態に陥ったときに身を守ろうとすれば、均衡を打ち破らなければならない。仮にそこで何かを得たとしても、代償を払うことになろう。踏み切りには、覚悟が要るのだ。 『天気の子』(日本…

武器としてのグウタラ

10年ぶりの再演、五反田団『偉大なる生活の冒険』(アトリエ・ヘリコプター)は、主人公が40代になっているが、働くこともなく、元彼女の家で男がゴロゴロ寝転がったり、ゲームをして暮らすというグウタラぶりは、変わらない。彼は他人を羨ましがるわけでも…

繰り返す時間

誕生日の日にベビーマスクの人物に殺される。『ハッピー・デス・デイ』(米国、クリストファー・ランドン)の女子大生は、そんな夢を何度も見る。目覚めるといつも、同じ日の同じ時間だ。見るたびに、かかわる人間への対処を変えるのだが、それでも殺される…

喪失の認識

解説は別紙に書かれているが、見ずに現物だけ見てもいい。 空間と展示物が呼び覚ますものは、観る者がすでに知っているものだ。決して明るいものではないが、喪失を再認識することで、会場を出た者は、あらためて、生を実感するだろう。

バンドの入り口

聞きやすくかつ、変化に富みつつ、しっかり作られたバンド音楽。『SHISHAMO BEST』は、すべての入り口だ。

歌は続く

ポップス、グループサウンズ、ニューミュージック、演歌……。桑田佳祐が一人で歌う大衆歌謡ショーは、歌の表現力、演奏の技術力、まじめさとおふざけのバランスが卓越しているだけでなく、世界のあらゆる要素を取り入れて発展してきた大衆歌謡の歴史を通して…

熟練の旅

黒沢清らしいホラーまがいの場面、裏のありそうな人物……。『旅のおわり世界のはじまり』(日本・ウズベキスタン・カタール)は、黒沢清らしい色合いは残しながらも、異国で撮ったためか、映像も展開も、みずみずしさがある。 番組制作のためにウズベキスタン…

地獄への道

情のある殺人鬼。などといった中途半端なキャラクターは、ラース・フォン・トリアーの世界とは無縁だ。『ハウス・ジャック・ビルト』(デンマーク・フランス・ドイツ・スウェーデン)は、恋人もその家族も、容赦なく殺害し、死体を人形のように変形されて悦…

CDの味わい

『aikoの詩。』は、デビュー以来の全シングル38曲に加え、カップリング曲4曲を交えたコレクション。盛り込まれた技巧に加え、配列の妙により、何度聞いて飽きさせない。パッケージや編集の充実感は、CDならではだろう。

一夜の哀感

『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』(米国、ブレット・ヘイリー)は、閉店間際のレコード店主が、一夜だけのライブを娘と奏でる。医大を目指す同性愛者の娘は、心身ともにもう成熟しており、かつてミュージシャンだった父親の夢と挫折にこそ、哀感が…

そそる書評

どの小説も面白そうで、読書欲をそそられる。 『小説という毒を浴びる』(集英社)は、幅広い読書家として知られる桜庭一樹の小説書評集。作者の小説よりも、書評の方がはるかに巧みだ。

夢の裏側

役者がそろう。作品の質もいい。固定ファンもいるし、動画配信などにも対応している。 震災以降、動員数が減ったと言われるが、それでも他の劇団と比べて、稼ぐ要素に欠けているとは思えない演劇集団「キャラメルボックス」が活動休止に追い込まれたのは、運…

レトロな心地

「ハルレオ」は、女性二人のユニット。インディーズ音楽の人気者だが、方向の違いから解散を決意し、最後のツアーに出る。『さよならくちびる』(日本、塩田明彦)は、現代でありながらレトロな物語だが、ライブ風景にも音楽にも、レトロゆえに楽しめる心地…

人生はシーソー

聡明だった父の衰えと見守る家族。『長いお別れ』(日本、中野量太)は、父が記憶を失っていく一方で、行きずまっていた妻子の私生活が開けていく。人生はシーソーのようなバランスで、できている。

幻想スケッチ

どんな街にも風景があり、物語がある。『嵐電』(日本、鈴木卓爾)は、幽霊がいなくても成立する映画だろうが、路面電車を利用する人々の柔和な幻想スケッチである。

どこかの物語

浮世絵をも取り入れたトーベ・ヤンソンの原画。ムーミンは、どこかの国ではないが、どこかの国でもある物語だ。

アクセスカウンター