2019-01-01から1年間の記事一覧

世界を変える

労働者階級出身のアレキサンダー・マックイーンは、身近の安い素材で斬新なファッションを量産。対極とも言えるジバンシィでも活躍した。 『マックイーン モードの反逆児』(英国、イアン・ボノート)40歳の人生をファッション制作で駆け抜けた才人の生涯を…

映画の楽しみ

死刑執行前夜に新聞社の編集長が、冤罪立証の取材と元妻の結婚解消をまんまと成功させる。『ヒズ・ガール・フライデー』(米国、ハワード・ホークス)は、凝った設定の濃密な喜劇。脚本・演出・演技が三位一体となり、映画が映画であることの楽しさを満喫さ…

生き残るほ乳類

生き残るために変化してきた哺乳類たちの驚くべき身体機能。『大哺乳類展2』(国立科学博物館)は、同類にのみ、目が行きがちの人間たちに、多様さと適応能力の必要性を再認識させる。

米国の娯楽映画

ギャングの情婦と堅物の百科事典編纂者とのてんやわんや。空中分解しかねないごたごたした材料を快作にまとめた『教授と美女』(米国、ハワード・ホークス)は、米国娯楽映画の底力を裏打ちさせるものである。

老いてもダンディー

仕事人間だった男が、疎遠だった妻に寄り添い、娘たちにも礼を尽くす。『運び屋』(米国、クリント・イーストウッド)は、老境による変化を、哀愁でも悲観でもなく、高潔な決断の好機として、とらえている。 壮年期でも老年期でも、イーストウッドの世界の主…

娯楽の王道

クライマックスでのヒーロー総登場と、メインキャストの死。『アベンジャーズ エンドゲーム』(米国、アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ)は、SF娯楽アクションとして、観る者を大いに興奮させた。作品の完成度、テーマ性云々よりも、様々な事情に目配りつ…

小説のグローバリズム

『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』(早川書房)で現代の中国SFを英訳し、編集したケン=リュウは、中国作家の問題意識は自国のことにとどまっているわけではないと、主張する。 「中国の作家たちは、地球について、たんに中国だけではなく人類全体に…

心のマッサージ

渡辺源四郎商店の再演作『背中から四十分』(ザ・スズナリ)は、近松門左衛門を意識した心中物である。ホテルで一夜を過ごす投げやりの男と、挙動不審の女マッサージ師。交わされる会話によって、お互いの重い事情が明らかになる。 共に死んでもおかしくない…

運命の不合理

原発事故をきっかけに浮き出た家族の崩壊、地域の疎外、職業の喪失……。『福島は語る』(日本、土井敏邦)は、災害そのものとは別の不合理を見せつける。自助努力だけではままならない運命の非情さ。安全圏にいられるのは、偶然にすぎない。

おかしな兄妹

失業した兄が、自閉症の妹に売春させて、生活費を稼ぐ。『岬の兄妹』(日本、片山慎三)は、どん底にあっても、『道』のような悲哀ではなく、なりふり構わぬ純朴さゆえのおかしみがある。

理想の友情

上品な主人が黒人、がさつな運転手が白人。実話とは言え、設定が既成の映画とは逆だが、『グリーンブック』(米国、ピーター・ファレリー)は人種や身分を超えた友情物語となっている。世間の冷たさとは、かけ離れた善意の物語だが、理想の見心地は悪くない。

シンプルに見えても

劇映画の前座にすぎぬ短編アニメ。猫とネズミの追っかけ子という使い古されたアイデア。『トムとジェリー』が反響を呼び、たちまちシリーズ化できたのは、ウィリアム=ハンナとジョセフ=バーベラという二人のアニメーターによるアイデアに満ちた演出と卓越し…

サイボーグの実演

漫画と特撮映画との幸福な出会い。『アリータ バトル・エンジェル』(米国、ロバート・ロドリゲス)は最先端の才能の結集で、サイボーグ少女の目覚めと格闘を、緊迫感たっぷりの展開で実写化した。生身とサイボーグの境界線は、近未来では消滅するだろう。

生涯俳優

90歳を超える現役俳優、織本順吉。さすがに体力の衰えから、セリフを忘れたり、主演作を断らざるを得なくなる。家族の前でかんしゃくを起こしたりする。 2本組のドキュメンタリー『老いてなお 花となる』(NHK)で織本が見せるのは、撮影者が娘だからこそ見…

途上段階の絵

コルビュジェの芸術は、抽象画の段階で完結しているわけではない。建築に作り上げて、ようやく完成するのだ。

走る画家

寝る間も惜しんで各地を旅し、絵を描く現代画家・瀬島匠。情熱の源泉は、青年期に亡くした弟たちへの思いだった。 教え子たちを始め、誰をも元気づける奔放さと、創作姿勢に一貫する家族とのつながり。『ぼくの好きな先生』(日本、前田哲)は、キャンバスの…

遠からず

暴動を疑われ、関東大震災時に虐殺された在日朝鮮人たち。五輪開催前に追悼の木を植え直そうと、市民が神社に集う。 燐光群『九月、東京の路上で』で、演者たちのたたみかけるような語りによって明かされる幾多のエピソード。今日の観客は、遠い日の出来事と…

緊急ドラマ

緊急通報室のオペレーターが家庭内殺人事件を知って、解決に奔走する。『THE GUILTY ギルティ』(デンマーク。グスタフ・モーラー)の大半は電話のやりとりだが、音と映像が実に効果的であり、役者を始め、プロのスタッフだからこそ、編み出せるサスペンスだ…

見えないもの

目が見えるからこそ、見えていないものがある。『エマの瞳』(イタリア・スイス、シルビオ・ソルディーニ)のプレイボーイは、目の見えない女に惹かれて、ようやく気付くのだ。

敵の存在

「結果が出にくくなり、年齢に適したフォームを探し始めたことが、迷い道への入り口だった。センチやミリ単位にこだわる試行錯誤を始めた時点で、衰えの兆候があったと言うことだ。……イチローならば、オリックス時代の「振り子打法」のような、ゆったりとし…

盆踊り

震災で人が去った町。伝統を残すためには、盆踊りを復活させることだ。 『盆唄』(日本、中江裕司)では、事情を抱える町人たちが歌い、踊り、太鼓を叩く。

日米関係

日米の関係は、一本線ではない。常に別の要素を見る必要がある。

自粛

昭和の終わりも平成の終わりも、自粛が再燃。国の風土は変わらない。

出生の異議

映画『金子文子と朴烈』(韓国、イ=ジュンイク)では文子の人格形成の経緯が見えにくいが、獄中手記の『何が私をそうさせたか』(岩波文庫)では、当時許されなかった自我の目覚めが率直に綴られている。 人は出生時に性も家庭も選べない。そのことで制約を…

発見の余地

常に変化し、発見の余地を残す葛飾北斎。現代においても、なお語りつくされたわけではない。

脱却

漫画『トクサツガガガ』の原作者、丹羽庭は、オタクの正当化を否定する。人とは絶対に分かり合えないし、誰かに肯定してもらおうと期待することもない(『朝日新聞』3月2日夕刊)。 諦念と成熟、少数派の断固たる主張。異色作のヒットには、既成概念からの脱…

世界が終ろうとしても

終末期を匂わせる世界で、信仰心を失い、人をも信じられなくなった牧師。それでも生きていくのか。 『冬の光』(スウェーデン、イングマール・ベルイマン)は、深遠な思いの込められた映像詩である。虚無的でありながらも、魂を焼き直すかのようだ。

実在する世界

イスラム過激派による突然の襲撃で夫を殺され、息子を捕虜にされ、自身は性的奴隷に仕立てられる。クルド人自治区の女は、女だけの武装組織を率いて、息子の救出に乗り出す。 法も秩序もない。『バハールの涙』(フランス・ベルギー・ジョージア・スイス、エ…

やりたいように

難病患者だからといって、へり下るわけでもない。『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(日本、前田哲)は、鹿野靖明の自分を全うする生き方が、振り回されるまわりの者も元気にする。 ただ一度の人生。やりたいことを我慢して、くよくよ悩むよりも、や…

第3者の役目

『DV2』(フレデリック・ワイズマン)の被写体は、DVを審議する裁判所。加害者に罪意識はなく、被害者も加害者に依存する傾向がある。第3者が介入し、指示を強要しなければ容易に解決できないのが、実態だ。

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