2023-02-01から1ヶ月間の記事一覧

麦と夫婦

武骨な男と、身体が不自由で子どもの産めない女。貧農の村で、家族からじゃまもの扱いのまま、中年になった二人が初めて夫婦となる。手作りの家に住み、麦を育て、家畜と暮らす。かたくなな態度を取りながら、かつて味わったことのなかった愛情をお互いに感…

高齢の疑似家族

高齢者向けの売春クラブが生まれたのは、決して不謹慎な理由ではなかった。かかわった人々が、伝統的な家族観に敗北したのが惜しまれるが、クラブにかかわる老若男女の群像劇『茶飲友達』(日本、外山文治)は、疑似家族の年齢層を広げた。

船の運命

渡辺源四郎商店『Auld Lang Syne』(こまばアゴラ)は擬人化された青函連絡船から、日本の近代史を浮き上がらせるシリーズの一編。 国産もあれば、外国産の建造もある。年月とともに、活動の場は変わった。その間、人や貨物を運ぶだけの役割から、武器の輸送…

いかなる状況でも

地上600メートルの鉄塔に取り残された二人の女。梯子が途切れ、電波はつながらず、リュックも落とし、ハゲタカにも襲われ……。『FALL』(英国・米国、スコット・マン)は、彼女たちだけの場面がほとんどだが、最後まで緊張感が途切れない。二人の間には、一人…

アーティストの色彩

手書きの歌詞、舞台衣装、絵画……。『ユーミン・ミュージアム』(東京シティビュー)の展示は、松任谷由実を音楽家に限定していない。私物の色鉛筆は、曲で色彩を感じさせるアーティストの一端をのぞかせる。

有意義な会議 

ユダヤ人を物資と考え、その効率的な処分について、出席者が己の立場と思惑にもとづいて、冷徹に主張を展開する。議事録が残されていたため、『ヒトラーのための虐殺会議』(独、マッティ・ゲショネック)では、1942年当時の会議を再現している。 中身と決定…

今日の演劇

再演された青年団『日本文学盛衰史』(吉祥寺シアター)では、明治の文学者の逸話に、現代の話題も放り込み、あえて戯画的な動きも取り入れている。言葉の葛藤と、国の歴史。平田オリザの戯曲と演出は、他作品よりも、笑いを誇張し、あえて主張を強く打ち出…

写真家の眼

半世紀に及ぶ写真家の軌跡。『祈り・藤原新也』(世田谷美術館)では、内外の写真と友に著名人も映っている。同等の大きさで展示された文字も、カメラ同様、対象を正確に見据え、ぶれない姿勢に支えられている。

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