2015-01-01から1年間の記事一覧

老いての夢

もはやリングで闘うことはできないし、練習相手すら満足に務めることができない。『クリード チャンプを継ぐ男』(米国、ライアン・クーグラー)では、老いたロッキーが、盟友アポロの息子のため、トレーナー役を引き受けて、世界戦に臨む。病を押しての姿が…

新たなフォース

新シリーズ『スター・ウォーズ フォースの覚醒』(米国、J・J・エイブラムス)では、従来の神話性が身を潜め、アクションだけが展開される。ハン・ソロ父子の葛藤も、ルークとの再会も、感情を揺り動かすような造形にはなっていない。意図の効果は、次回作以…

純愛のリアリティー

離婚したての父を娘の友人が奪おうとして、なりふり構わぬ攻勢に出る。 『友だちのパパが好き』(日本、山内ケンジ)は、そんな彼女だけでなく、職場も学校も愛人も、すべてが極端な人物ばかり。極端故に純愛が成立するという展開が、リアルに見えるかどうか…

他者の手

『魔女の宅急便』(日本)であれ、他の作品であれ、宮崎駿のアニメでは、行き詰った主人公を必ずだれかが助ける。あるいは、別の世界へと導いてくれる。 積極的な主人公の飛躍も、独力だけではない。 場面を変え、世界を開くには、他者の手も要るのだ。

人間力

時代の変化と共に解体を迫られる諜報部門。悪と裏で手を組む組織長。 『007 スペクター』(米国、サム・メンデス)では、内なる敵がジェームズ・ボンドの活動を妨害する。 グローバル化とシステム革新は、人間の行動に様々な制約を設けるが、縛りを打破する…

ゲゲゲの日常

『ゲゲゲの家計簿』(小学館)は、水木しげるが貧乏時代を綴った生活漫画である。 家族との同居で、ぎりぎりの家計。残金ゼロの日もたびたびあるが、たまに好きな物を買ったり、遊ぶ楽しみは絶やさない。 売れっ子になったからこそ、振り返ることのできる過…

ロボット俳優

ロボットが演技する映画は、これから増えるだろう。 『さようなら』(日本、深田晃司)では、原発爆発後の近未来で、異国難民の死を見守るアンドロイドを演じている。 寿命のある人間と、エネルギーのある限り動くことのできるロボット。 生命が永遠であるべ…

不快さの逆説

救いをもたらすわけでもなければ、癒しや爽快を与える場面も排除する。 冷酷な二人組から逃げきれずに一家が惨殺される『ファニーゲーム』といい、年上教師と教え子の禁断の愛が何ら幸福をもたらさない『ピアニスト』といい、快楽を与えぬミヒャエル・ハネケ…

誠実な演出

理解できそうにない人間にも、各々の事情と感情がある。 『恋人たち』(日本、橋口亮輔)は、多数の共感は決して得られないであろう人間の内面を、乱暴に扱うことなく、丹念に救い取っている。 地道で丁寧な手つきが、作り手の誠実さを感じさせる。

人間らしさ

人間と動物、男と女。五反田団『pion』(アトリエヘリコプター)のすべてが一つの世界としてつながっているという発想は、前田司郎演劇の定番だ。 動物が人間に近づき、人間が動物に近づくことで、失うものもある。現在にのみ生きる動物は、過去や未来を交互…

報道の鑑識

報道は現場からどうしてもずれる。まず、世間がそれについて先から抱く観念のほうへ、また、世上の観念の方へ寄らなくては照し出せない実相もある。現場の人間ばかりがそこ現実をつかんでいるともいえない。…… 受けた報道を、想像力によって、また現場の方へ…

リストラの痛み

理不尽なリストラで失職した主婦たちが、スーパーの経営陣を相手に解雇撤回を求めて運動を開始。『明日へ』(韓国、プ・ジヨン)は、実在の事件がベースだという。 働き手それぞれの事情を考えれば、安易に人減らしをすべきではない。方策によって、業績が一…

交換

少女の一途さと、老女の知恵。『ハウルの動く城』(日本、宮崎駿)のソフィーは、魔法にかけられて肉体の若さを失うが、老いて内面を広げたからこそ、新たな出会いと可能性がもたらされる。 失う一方で、得る物。ハウルも、魔法の力は失うが、魂を取り戻すの…

アート映画

写真や、ぶれたような映像の挿入。家出少女と外国人運転手のほほえましい交流が裏切られる結末。 『わたしの名前は...』(フランス、アニエス・トゥルブレ)には、賛否両論あろうが、総合アートとしての映画作りの楽しみを再認識させる作品でもある。

国境の物語

国境沿いの廃船で暮らす少年のもとに、異国の侵入者がやってくる。 『ボーダレス ぼくの船の国境線』(イラン、 アミルホセイン・アスガリ )は、言葉の通じぬ者たちの緊張感ある交流を、言葉でなく、映像そのもので伝える。 寓意的であり、普遍的な物語であ…

高齢化の理想

『マイ・インターン』(米国、ナンシー・マイヤーズ)は、ベンチャー企業を経営するやり手の女をシニアインターンがサポートする。 仕事や家庭にふりまわされる彼女を支える老男性。経験に裏打ちされた余裕ぶりが頼もしい。 高齢化社会の理想像である。

半端さへの挑戦

幽霊に見えない幽霊の夫と、現世に生きている妻との最後の旅。 『岸辺の旅』(日本・フランス)は、黒沢清があえて中途半端な世界に徹した映画だが、はたして成功したのかどうか。

園子温の底力

園子温が原作物のエンタメに徹したときは、怖いもの知らず。 『映画 みんな!エスパーだよ!』(日本)も、ゆるみのないSF喜劇だ。 童貞の高校生エスパーたちが結集して、悪のエスパーと対決。男の妄想を実現させた映像だが、演じる女性キャストも楽しそうだ…

異端こそ本道

ハリウッド型の明快な映画とは一線を画したアルトマン。 ドキュメンタリー『ロバート・アルトマン ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』(カナダ、ロン・マン)は、アルトマン自身の証言も踏まえつつ、彼がインディペント映画の第一人者になるまでの…

芸術の舞台裏

『ボリショイ・バビロン 華麗なるバレエの舞台裏』(英国、ニック・リード)は、芸術監督への硫酸事件までも起きたロシアの名門バレエ団の内幕をよくぞここまでというレベルまで撮影したドキュメンタリーだ。 芸術を愛する一方、衝突しあうバレエ団のダンサ…

デジタルとアナログ

NHKのドキュメンタリー『浦沢直樹の漫勉』で、浅野いにおは、写真のパソコン処理とペン書きを融合させる。大枠をデジタルで済ませ、描き込む作業をアナログでこなす。 テクノロジーの進化に伴う時代の贅沢な作画。 描く方も楽しそうだ。

変えるべきもの

改憲論を唱える人も少なくない。しかし私が理解する限りにおいては改憲論の根拠というのは、現行憲法が(良すぎて困る)から改定しようという意見のようである。つまり少しばかり改悪した方が都合がいいから、世界の実情や日本の実情に合うように改悪しよう…

皮肉な回顧談

『小さな巨人』(米国、アーサー・ペン)は、先住民と白人の両社会を行き来して奇異な体験をした老人の回想話を喜劇調に描く。 信仰と英雄神話の裏面を辛気くさくならないよう活写することで、皮肉は、より広がるのである。

脱構築

村上春樹の自伝的エッセイ『職業としての小説家』(スイッチ・パブリッシング)は、小説作法の心得であると同時に、生き方の処世本でもある。 ふとした偶然で手がけることになった職業を、いかに掘り下げ、表現を伝える場を広げたか。実践に裏打ちされた手の…

殺戮の自発性

環境対策のためには人口を削減すればよい。人間同士が殺し合いをすれば目的は果たされる……。こうした論理こそが、人類の歴史で戦争を絶やさない一因となっている。食料も資源も、人間が増えすぎないことで、備蓄できるという発想につながるからだ。 『キング…

青春の逃走

『俺たちに明日はない』(米国、アーサー・ペン)は、ただの犯罪映画ではない。 不能の男、町を出たいと願う女。退屈な生活からの脱出を欲している者同士だが、安定した生活や家族への思慕は消えていない。 銀行強盗を働いて道を踏み外したが故に、逃走生活…

運命の差

ベトナム戦争を背景にした青春の栄光と終焉。 無邪気なロシア系の若者がロシアンルーレットによって狂わされていくという『ディア・ハンター』(米国、マイケル・チミノ)の悲痛な群像劇は、米国の夢の盛衰でもある。 過去を脱却できた者もいれば、過去にしが…

映画は続く

映画を熟知した者が、演出も画づくりも細部まで丁寧に仕上げている。 旅館の男女の距離間を綴った『3泊4日、5時の鐘』(日本・タイ、三澤拓哉 )は、技芸とセンスを感じさせつつ、これ一本で終わらない永続的な世界の構築を予感させる。

成果のために

コソ泥で日銭を稼ぐ男が這い上がる手段は、テレビ局に事件映像を売り込むことだった。 『ナイトクローラー』(米国、ダン・ギルロイ )のカメラマン、ルイスは、衝撃映像を手に入れるには、非合法手段でさえ、いとわない。被害者の惨状に目をつぶり、仕事仲…

記憶と堕落

戦後の堕落は結局のところ持続しなかった。集団はその後も暴走する。過ちを繰り返す。なぜならこの国は記憶しない。絶望しない。堕ちない。ぎりぎりのところで新しい曲で踊り始める。(森達也「深い絶望と共に考え続ける」(『週刊金曜日』9月18日) 正確に…

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