2016-10-01から1ヶ月間の記事一覧

自分だけの文章

ブコウスキーの本は、義母の趣味には、まったく合わなかった。だが、彼女の世界とは、かけ離れた世界を映し出すことに、彼は燃えたのだ。 わたしはそういう自分だけの文章を生み出すためにじめじめとして薄ら寒い洞窟のような部屋で心を惑わせることなく忠実…

葛藤劇

殺人の刑期を終えて、ふいに出現した男。旧知の彼を主が家に招き入れたことから、穏やかな家庭に裂け目が生じていく。 『淵に立つ』(日本・フランス、深田晃司)が、深田の旧作『歓待』や安部公房の『友達』と違うのは、男が去ってからの家族が展開に加えら…

英雄どころか・・・

『ハドソン川の奇跡』(米国、クリント・イーストウッド)の機長は、わかりやすい英雄ではない。 エンジン損傷で墜落必至の飛行機を川に不時着させて乗客全員を救った機長。国民には英雄視されるが、国家運輸安全委員会や保険会社からは、彼の判断が的確だっ…

美しい寓話

兵士たちがにらみあう川の中州にある島で、畑を耕す老人と孫娘。 寓話劇『とうもろこしの島』(ジョージア・チェコ・フランス・ドイツ・カザフスタン・ハンガリー、ギオルギ・オバシュビリ)は、シンプルなストーリーといい、映像の美しさといい、アニメ向け…

したたかな作家

政治的なタブーは、それが「視覚的に楽しめる」ようなものに、つまり、エンターテインメントに転化されたとき、はじめて最終的に、政治的に、解除されるのである。(加藤典洋「シン・ゴジラ論」―――『新潮』10月号) エンターテインメントならではの切り口。…

自分の維持

『君の名は。』(日本、新海誠)は、これまでの同監督に見られた一方的な思いや、ナルシスティックな独白は少ない。特殊な光の場面も、抑えめだ。ストーリーも一般的な観客に受け入れやすくしており、ヒットの一因だろう。 時代と空間が結びつき、事前の回避…

希望の歌声

紛争地区、ガザの少年が歌のコンテストで勝ち、たちまちスターに。 『歌声にのった少年』(パレスチナ、ハニ・アブ=アサド)は、ただのサクセスストーリではない。実話がモデルだ。 貧困故に病気の姉を助けられず、コンテスト出場のためのビザ作りにも苦労…

情熱と理念

1970年代、3部構成で社会主義政権の成立と挫折を追った『チリの闘い』(チリ・フランス・キューバ、パトリシオ・グスマン)。撮影者の一人は軍に狙撃されて亡くなった。まさに命を懸けたフィルムだ。 経営層のスト推進、米政府の物資削減……。既得権者に妨害…

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