葛藤劇

 殺人の刑期を終えて、ふいに出現した男。旧知の彼を主が家に招き入れたことから、穏やかな家庭に裂け目が生じていく。
『淵に立つ』(日本・フランス、深田晃司)が、深田の旧作『歓待』や安部公房の『友達』と違うのは、男が去ってからの家族が展開に加えられたことだ。
 娘を全身不自由な体にさせて、蒸発した男。夫が探し続けるが、家族に理解は得られない。娘を世話する妻は、冷淡な夫と別れようとする。
 歳月を経て、いっそう強くなる男の影が、最小限の空間と人間によって、浮き彫りにされる。映画と演劇の融合によって育まれた冷徹な葛藤劇だ。

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