2022-07-01から1ヶ月間の記事一覧

鎮魂の記録

借金をしてまで、なぜ母が北朝鮮の息子たちに仕送りを続けるのか。『スープとイデオロギー』(韓国・日本、ヤン・ヨンヒ)は、監督自身が、母から済洲島事件の悲痛な体験を聞く。病で記憶を失いつつある母を記録することは、石碑にさえ名を刻まれることなく…

進行形

赤ん坊を手放す娘も、買い手を見つけるブローカーも、追う刑事も、それぞれの事情がある。『ベイビー・ブローカー』(韓国)は、疑似家族や命の意味を問い続ける是枝裕和の集大成だが、既成の価値観を越えるという意味では、進行形の作品である。

プレスリーの価値

ロックスターの生涯を語るのは、彼自身ではない。『エルヴィス』(米国、バズ・ラーマン)の語り手は、彼を食い物にした悪徳マネージャーだ。辛辣な悪人と比較されることで、プレスリーの純粋な人間性や、歌の魅力が、いっそう浮き上がる。 人種差別も既成感…

開かれた青春

1970年代を舞台にした定型の青春物語と思いきや、ポール・トーマス・アンダーソンが手掛けただけあって、『リコリス・ピザ』(米国)は、どう転ぶかわからない、奔放な喜劇に転換されている。美談美女ではなく、年齢差のあるさえない男女が、強烈な脇役たち…

人類の願望

75歳になれば、死を選択できる近未来というSF的な設定でありながら、『PLAN75』(日本・フランス・フィリピン・カタール、早川千絵)のタッチは、ひたすらドキュメンタリー調だ。特異なキャラクターも、劇的な展開も、存在しないからこそ、死の在り方を思索…

世界は共通

ドキュメンタリー『FLEE フリー』(デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フランス、ヨナス・ポヘール・ラスムセン)は、証言者を保護するため、アニメにされた。アフガニスタンでは人権が無視され、迎えられたロシアでは腐敗した警察に搾取され、弱小国の…

才能は集えど

室町期の能楽師をミュージカルアニメに昇華した『犬王』(日本、湯浅政明)。絵柄といい、楽曲といい、歌い手といい、強者ぞろいだが、それぞれの才能が融合したとは言い難い。同じ素材を使って、ジャンルを分けた方が、表現の印象が明確になったろう。

わくわく展示

スケッチを大きくして見せたり、作者が好きなグッズを置いたり、遊べる動画のコーナーを用意したり……。作者の脳内のようなわくわく感を視覚化した『ヨシタケシンスケ展』(世田谷文学館)は、企画者の遊び心も感じられる。

青年の行く末

何をやるのか、方向が定まらない青年。周りには、口下手ながらも思いやりのある親たちや、彼を放任する仲間たちがいるが、『冬薔薇(ふゆそうび)』(日本、阪本順治)は、決して人情話には傾かない。 彼の羅針盤は、両親や去った人々ではない。新天地に向か…

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