2012-03-01から1ヶ月間の記事一覧

最近を決めつけたがる人

世間には最近の「文学は全然ダメでしょ」と決めつけたがる人がいて、こういう人に限って文芸誌はもちろん「最近の文学」もほとんど読んでいないのだが、教養人である彼らは若い頃には名作を浴びるほど読んだという自負があるため、自分が文学の素人だとはけ…

馬も犠牲者

戦場で酷使されたのは、人間だけではない。馬も犠牲者だ。 『戦火の馬』(米国、スティーヴン・スピルバーグ)では、競走馬が農耕馬にされ、やがて戦場に連れて行かれて、ボロボロになるまでこき使われる。 戦場でも農地でも、人に使われる限り、馬は奴隷な…

物語の解体

都合のいい物語は、悲劇を生む。 燐光群の『ALL UNDER THE WORLD 地球は沈没した』(笹塚ファクトリー)は、物語性を廃し、コンピュータが抽出した断片的な言葉を発する。 3月11日の出来事を意識した世界で起こる言葉と動き。 壊された世界…

居場所

自分の一生の中で、今日は暇だけど何しようかなというときに、うん、あそこに遊びに行こう、あそこに遊びに行ったら、誰々と会えるんじゃないかなと、そう思える場所があるということ自体がすばらしいんです。(渡辺 京二×津田塾大学三砂ちづるゼミ『女子学…

ある日突然に

原発事故で人が去り、取り残された動物たち。傷つき、弱り、飢えて死ぬ。 なぜ、こんな目に? 彼らに、わかるのだろうか。 『のこされた動物たち 福島第一原発20キロ圏内の記録 』(飛鳥新社、太田康介)は、突然の事態に見舞われた生き物の写真集である。

作り手の心得

今日見た人間の中で俺の近年の作品と比べても、これが最高だ、群を抜いていると言う人が早くも現れる。いつも思うことだが、これが最高だと言われると、今までのはなんだったのだと思うし、これ以前のが最高だと言われると、そんなことはない、これが最高だ…

映画監督の病

結婚式での家族の葛藤劇から後半は接近する惑星への恐怖劇に一転。 『メランコリア』(デンマーク・スウェーデン・フランス・ドイツ・イタリア)は、ラース・フォン・トリアーの病的体質が投影された異色のサスペンスである。 完成度や口当たりを損ねても、…

なぜ書くか

小説家が小説を書くのは、小説を書くという行為を通じて何かを考えたいからだ。そして、できるなら人間の考えるという営みにかかわりたい。(保坂和志『魚は海の中で眠れるが鳥は空の中では眠れない』筑摩書房) 考えたいという欲求がなくなった時点で、小説…

物語の誕生

現実のつらさや苦しさを忘れるために娯楽に走るのだと言う人がいますが、エンターテインメントというのは、そんなに底の浅いものではありません。 人間は、物語がないと生きていけない動物です。……人間は、自分の死を意識してしまった厄介な動物だからです。…

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