2011-03-01から1ヶ月間の記事一覧

記憶の集積法

大正9年8月、柳田国男は大震災で被害を受けた三陸海岸の村や町を歩いた。その折、柳田が書いたエッセイの内容を民俗学者の赤坂憲雄が紹介している。 大津波についての文字なき記録は、「話になるような話」だけが繰り返され、濃厚に語り継がれているうちに、…

とどまる

『神々と男たち』(フランス、グザヴィエ・ヴォーヴォワ)は、実在の事件がモチーフになっている。 アルジェリアの小さな村の修道院。フランス人修道士たちは、内戦が勃発しても、村に残留し、村人との交流を続けた。異教徒やテロであろうと、訪れた者には、…

往きと還り

親鸞は「人間には往きと還りがある」と言っています。「往き」のときには、道ばたに病気や貧乏で困っている人がいても、自分のなすべきことをするために歩みを進めればいい。しかしそれを終えて帰ってくる「還り」には、どんな種類の問題でも、すべてを包括…

世界があるために

新聞に載った小さな記事や日常の出来事に、外からは予想もつかない大きな記憶が蘇る人がいるということだ。人それぞれが持つ時間の厚みが世界の凹凸や濃淡となる。人間が存在するかぎり世界は決して均質でのっぺりしたものにはならない。 (保坂和志「私の収…

闇を逃れても

いつ終わるかどうかわからない大停電。人は消え、衣服だけが道端に残っている。 『リセット』(米国、ブラッド・アンダーソン)のラストでは、唯一生き残った少年少女の存在が、かすかな希望をいだかせる。 だが、これから先は、彼らだけで生き抜かなければな…

危機管理

ヒトヨシ 大噴火がおこったからと言って、どこへ逃げられる。 ノリヘイ そこだ! やっと聞いてくれたか。そこだ! そこなんだ! 問題は。ひとたび噴火すれば、どこへも逃げられない。たとえ逃げて助かったところで、ここは火山の灰だらけ。今よりもっと食え…

見えたあとで

津波に飲み込まれて一命を取り留めたジャーナリストも、死者の声を聞き取れる霊能者も、常人には見えないものが見えてしまうがゆえの苦労がある。 だが、見えてしまったものを受け止めつつ、こちら側の世界で生き続ける方法もあるはずである。 『ヒア アフタ…

執念

『悪魔を見た』(韓国、キム=ジウン)の男は、婚約者を殺された恨みを晴らすため、猟奇殺人犯を一撃で殺さず、何度も逃がしては執拗にいたぶる。相手が一番堪える方法を貫くのが最大の復讐だと信じて疑わない。 男の異様な執念も、猟奇殺人犯に匹敵する不気…

国王たるために

国王とて人間であり、常人が持つような欠点を持つのも不思議ではない。それでも、立場上、克服しなければならない。 『英国王のスピーチ』(英国・オーストラリア、トム・フーパー)では、ジョージ6世が吃音の矯正を迫られた。指南役を引き受けたのは役者崩れ…

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