2023-05-01から1ヶ月間の記事一覧

暗闇の時間

ほとんど暗闇の中で、電光が点滅し、かすかな音が聞こえる。電光の下で観客が輪になり、浮遊する文字を見つめている。空間で足を止めるのが、ごく短い時間であっても、『ダムタイプ 2022: remap』(アーティゾン美術館)は、濃密な余韻を残す。

健全な演劇

青森県のとある村に原発と廃棄物処理施設がある。そこに他国のスパイが侵入し、ミサイル発射の機会をうかがっている。渡辺源四郎商店『空に菜の花、地に鉞』(ザ・スズナリ)が取り扱うのは、日本のどこでも起きうる事態だ。今だからこそ取り入れるべきテー…

私小説家の供養

作品を通じて伝わる正直さで読者に共感を得ながらも、自己の演出と正体の不可解さを明るみにした私小説家。『魂を継ぐもの〜破滅の無頼派・西村賢太〜』(NHK)では、読者や編集者・知人の証言を紹介。作家に関するもっともらしい解釈を導きながらも、一層の…

現実としての高齢化社会

医療水準が高い半面、移民の受け入れ率が低い。こうした国において、高齢化は避けられない。サラ=ラブマン『超高齢化社会 日本が切り開く未来』(『ナショナル ジオグラフィック』4月号)が報告するのは、自治体や企業の対応だ。人的なネットワークだけでな…

陰の声

コロナ収束と共に、当時の政策や報道から置きざりにされた人のことは忘れ去れるだろう。雨宮処凛『祝祭の陰で 2020-2021』(岩波書店)には、コロナ対策の混乱と五輪開催の強行に踊らされた国で、災害や失業などによって窮地に立たされた人々の声が記録され…

表現の自由

『新潮』4月号では、「言論は自由か?」という特集が組まれ、ドキュメンタリー監督の大島新は、香港ほどの規制や身の危険を恐れる必要のない日本で、安倍政権発足以降、自己検閲によって、表現の自由が独裁国家並みに自由が制限されているという国際評価に触…

誰かの身を切る

元大阪府議会議員・尾辻かな子の『大阪で維新圧勝を招いたからくり』(『週刊金曜日』4月28日・5月5日合併号)では、1人区を激増させたうえ、候補者よりも党を前面に出すとこで、議席を増やした手法に言及している。多様性よりも少数の意向のみが反映される…

風土

落ち目のポルノスターが長年別居中だった妻のもとに帰る。やることと言えば、ドラッグを売りさばくか、ドーナツ店勤めの女子高生と浮気するぐらいしかない。それでも、『レッド・ロケット』(米国、ショーン・ベイカー)は、ただのジャンク映画で終わってい…

変化する音楽家

『スコラ 坂本龍一 音楽の学校』(NHK)でYMOのメンバーが語るのは、常に変化することだ。年を重ね、機材が進化するにつれ、先鋭的な音楽家であるほど、ありふれた境地とは別の方向に進んでいる。

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