青年期まで接した英語ではなく、日本語での執筆。総理大臣だった父とのかかわり。三島由紀夫ら文士との付き合い……。『生誕110 年 吉田健一展 文學(ぶんがく)の樂(たのし)み』(神奈川近代文学館)は、工夫された構成で、酒や旅を愛した文人の痕跡を伝える。
猥雑さと豪華さの入り混じった世界。『ナイトメア・アリー』(米国、ギレルモ・デル・トロ)では、野心あふれる興行師が悪徳学者と組むが、曲者の大金持ちをだまそうとたくらんだのが運の尽きだった。栄光に酔いしれた彼は一転、見世物として、檻に閉じ込められる人生に舞い戻る。
彼は、拾った金を正直に返しただけだ。それが大変な善行だと、慈善団体やメディアに取り上げられたものの、債権者との和解交渉や、就職の成否といった現実を解決するわけではない。
『英雄の証明』(イラン・フランス、アスガー・ファルハディー)の服役囚は、婚約者との新生活を果たすどころか、刑務所に逆戻りする。どこまでも不運な人間が、この世には、いる。