文学展の楽しみ

 青年期まで接した英語ではなく、日本語での執筆。総理大臣だった父とのかかわり。三島由紀夫ら文士との付き合い……。『生誕110 年 吉田健一展 文學(ぶんがく)の樂(たのし)み』(神奈川近代文学館)は、工夫された構成で、酒や旅を愛した文人の痕跡を伝える。

    

 

健全な笑劇

 別れたカップルと彼女たちの知人だけで構成される男女の交錯。いかにも小劇場的に完結した人間関係が俯瞰され、演劇のテキストのように事例が披露されるのだが、会話や場面展開の軽妙さによって、退屈さは一切ない。洗練された愛笑劇とでも言うべき五反田団『愛に関するいくつかの断片』(アトリエヘリコプター)の満席ぶりは、疫病の終息に伴う人間たちの健全な反応と言える。

                  

 

言葉の衝突

  語りの名手とも言うべき伊藤比呂美町田康。『ふたつの波紋』(文藝春秋)で記録された両者の対話には、妥協もなければ、なれ合いもない。かみ合っていないからこそ、言葉の生々しさ、感覚のみずみずしさが、消えずに済んでいる。

                    

 

兄弟の実験

 商業性を無視できない音楽業界で、絶えざる実験性を続けながら、長年現役で活動するロン&ラッセル・メイル兄弟。『スパークス・ブラザーズ』(英国・米国、エドガー・ライト)は、幾多の音楽の源流とも言えるバンドの軌跡と魅力をたどる。

      

 

高齢の愛

 認知症の母を介護するのは、90代の父。脳梗塞で入院した母に面会するため、毎日、病院を訪れる……。『ぼけますから、よろしくお願いします。 おかえり お母さん』(日本、信友直子)は、娘が撮った愛の記録だ。

                   

 

再び奈落へ

 猥雑さと豪華さの入り混じった世界。『ナイトメア・アリー』(米国、ギレルモ・デル・トロ)では、野心あふれる興行師が悪徳学者と組むが、曲者の大金持ちをだまそうとたくらんだのが運の尽きだった。栄光に酔いしれた彼は一転、見世物として、檻に閉じ込められる人生に舞い戻る。

      

 

どこまでも不運

 彼は、拾った金を正直に返しただけだ。それが大変な善行だと、慈善団体やメディアに取り上げられたものの、債権者との和解交渉や、就職の成否といった現実を解決するわけではない。

『英雄の証明』(イラン・フランス、アスガー・ファルハディー)の服役囚は、婚約者との新生活を果たすどころか、刑務所に逆戻りする。どこまでも不運な人間が、この世には、いる。

     

 

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