2016-01-01から1年間の記事一覧

文学の錯覚

さやわかは、『文学の読み方』(星海社新書)で、文学とは錯覚にすぎないと、述べている。 ……大事なのは文字だけを使って「あたかも〜のように思わせる」という、その錯覚、ただそれだけが重要なのです。 長い歴史の中で、作家たちは「何か」を錯覚させるた…

ヒッチコックの快楽

『ヒッチコック/トリュフォー』(フランス・米国、ケント=ジョーンズ)は、ヒッチコックへのトリュフォーのインタビューと、影響を受けた各国の監督の証言をもとに、ヒチコック映画の魅力を検証する。見る者は、サスペンスフルなストーリーや、主演スター…

人間の本性

終戦直後、海岸に埋められた大量の地雷の撤去を元ナチスの少年兵が命じられた。十分な訓練を受けることなく、ろくな装備もないまま、砂浜を這いつくばる少年たちは、次々と負傷し、命を落としていく。 『ヒトラーの忘れもの』(デンマーク・ドイツ、マーチン…

壊れゆく関係

土曜ドラマ『スクラップ・アンド・ビルド』(NHK)では、祖父の介護をする失業中の青年が、自分の生き方を見つめなおすというオーソドックスな成長物語だ。 身体の不自由な祖父のおかげで、面倒を見る孫が役割を自覚する。モラトリアム青年を発奮させたのは…

量産の美術

グロテスクで妖艶な美が、少数の愛好者だけに提供されたわけではない。 『クラーナハ展―500年後の誘惑』(国立西洋美術館)では、量産された女性像が、現代の中国人画家たちの手で再現されている。

近代文学

『文學界』12月号の関川夏央との対談で、高橋源一郎が、住民に解決策を提示する大石静脚本のドラマ『家売る女』と対比させて、ひきこもりばかりの近代文学を批判している。 高橋 みんな近代文学になってしまっているんですよ。「僕は苦しい。部屋から出られ…

統一と非統一

中島 竹山は次のように言っています。「軍事と外交がバラバラで統一した国家意思がなく、強力な有機体と化した軍隊が無限の大陸で戦争したのだから、国はまさに亡びるべくして滅びた、というべきであろう」 平川 竹山のような本来の保守の見方が、保守の側か…

後継者

当人そっくりのロボットが発達すれば、やがては思考の継承も可能になるかもしれない。 人が一代限りで終わらず、類似品どころか、完全な複製が生まれるのだ。企画や表現も、時代の変化に合わせて調整できれば、利用価値のある限り存在できる。凡庸な後継者は…

裸体をさらして

美しく取られた裸体写真に、いやらしさはない。彫刻のようであり、人形のようでもある。 被写体も、カメラマンの前に、気持ちよく姿をさらしたのだろう。

振り返ることのできる時代

のほほんと生きていた主婦が、激しく非難の言葉をあらわにせざるを得なかった戦後。その瞬間をアニメとしての破綻ととらえるべきではない。叫ばずにはいられなかった時代をこそ、直視しなければならないのである。 いくら工夫しても、栄養や品物の不足は逃れ…

真剣映画

現実の棋士と勝負に負けてはいない。『聖の青春』(日本、森義隆)は、演出と演技が引き立つ作劇に徹している。 勝負には勝負を。手抜かりのなさが、全面から伝わってくる真剣映画だ。

失わないもの

山田太一のドラマ『五年目のひとり』(テレビ朝日)は、震災で家族を失い、いまだに立ち直れない男が、福島を出て東京のパン屋で働き、亡き娘そっくりの中学生と触れ合い、やり直しを決心するまでを描く。 忘却と強さばかりが優先される現在にあっても、山田…

香港映画の幅

貧しい家庭相手でわずか5人の園児だけの幼稚園。存続の危機に立たされた園の再生のため、エリート幼稚園出身の女性園長が病を押して、奮闘する。 『小さな園の大きな奇跡』(香港・中国、エイドリアン・クワン)は、実話がモチーフ。いわゆる熱血先生ものとか…

人間賛歌の言い訳

ずるくて、めめしい。『永い言い訳』(日本、西川美和)で本木雅弘が演じる作家は、浮気中に妻を失い、彼女の親友の遺族の前でも暴言をはいたりする卑小な人物。ところが、醜態を見せれば見せるほど、奥底の弱さ、不器用さが見えてくる。横暴にふるまいなが…

投稿空間

重要なのは柳田の「文学」=「民俗学」は、柳田個人が「文学」なり民俗学の論文を書くことが目的ではなく、誰もが近代の設計のために平易に使えるツールとしての言葉の技術をつくり、実践させていくことにあったということです。いわば柳田民俗学は、だれも…

物語の役割

現代演劇として遠野物語を選んだ劇団イキウメの前川知大は、テーマについて、強く語る。 遠野の話も、親や祖父母から聞いて、また誰かに話すという物語であり、口伝えの物語です。誰かから受け取って、誰かに渡すということが大事。だから、劇中でもそれを意…

感情への対抗

……たとえば安倍政権は、理性的な議論を忌避し、感情的な政治をおこなう。国民の現実にではなく「感情」に合わせて政策をカスタマイズすれば、不合理で自らに不利益しかもたらさない政策が支持される。(「大塚英志さんインタビュー「感情化する社会」の先に…

抵抗と創造

……社会生活を営むということは、自分の中に社会ができるということだから、書いている最中、その眼が「こんなものは小説と言わない」とつぶやいてくる。それは絶えず誰にでも、ぼくにもある。だけど、小説を書ける人には、自分が面白いと思うことをやり通せ…

自分だけの文章

ブコウスキーの本は、義母の趣味には、まったく合わなかった。だが、彼女の世界とは、かけ離れた世界を映し出すことに、彼は燃えたのだ。 わたしはそういう自分だけの文章を生み出すためにじめじめとして薄ら寒い洞窟のような部屋で心を惑わせることなく忠実…

葛藤劇

殺人の刑期を終えて、ふいに出現した男。旧知の彼を主が家に招き入れたことから、穏やかな家庭に裂け目が生じていく。 『淵に立つ』(日本・フランス、深田晃司)が、深田の旧作『歓待』や安部公房の『友達』と違うのは、男が去ってからの家族が展開に加えら…

英雄どころか・・・

『ハドソン川の奇跡』(米国、クリント・イーストウッド)の機長は、わかりやすい英雄ではない。 エンジン損傷で墜落必至の飛行機を川に不時着させて乗客全員を救った機長。国民には英雄視されるが、国家運輸安全委員会や保険会社からは、彼の判断が的確だっ…

美しい寓話

兵士たちがにらみあう川の中州にある島で、畑を耕す老人と孫娘。 寓話劇『とうもろこしの島』(ジョージア・チェコ・フランス・ドイツ・カザフスタン・ハンガリー、ギオルギ・オバシュビリ)は、シンプルなストーリーといい、映像の美しさといい、アニメ向け…

したたかな作家

政治的なタブーは、それが「視覚的に楽しめる」ようなものに、つまり、エンターテインメントに転化されたとき、はじめて最終的に、政治的に、解除されるのである。(加藤典洋「シン・ゴジラ論」―――『新潮』10月号) エンターテインメントならではの切り口。…

自分の維持

『君の名は。』(日本、新海誠)は、これまでの同監督に見られた一方的な思いや、ナルシスティックな独白は少ない。特殊な光の場面も、抑えめだ。ストーリーも一般的な観客に受け入れやすくしており、ヒットの一因だろう。 時代と空間が結びつき、事前の回避…

希望の歌声

紛争地区、ガザの少年が歌のコンテストで勝ち、たちまちスターに。 『歌声にのった少年』(パレスチナ、ハニ・アブ=アサド)は、ただのサクセスストーリではない。実話がモデルだ。 貧困故に病気の姉を助けられず、コンテスト出場のためのビザ作りにも苦労…

情熱と理念

1970年代、3部構成で社会主義政権の成立と挫折を追った『チリの闘い』(チリ・フランス・キューバ、パトリシオ・グスマン)。撮影者の一人は軍に狙撃されて亡くなった。まさに命を懸けたフィルムだ。 経営層のスト推進、米政府の物資削減……。既得権者に妨害…

叙事詩の根底

自然と生命をテーマに据えた壮麗な叙事詩。芸術アニメ『レッドタートル ある島の物語』(フランス・日本、マイケル・デュドク・ドゥ・ビット)をそう位置づけるのは、正当だが、根底はそれだけではない。 島を脱出することができず、妻を養い、子どもを育て独…

伝える形

『聲の形』(日本、山田尚子)は、ヒロインの硝子が障害者だが、いわゆる道徳アニメではない。傷害の有無以前に、他人同士が、自分らしさを残しながらも向き合えるかという、普遍的な物語である。 逃げる自分、都合に合わせる自分、人に譲れない自分、遠くか…

人間とは何か

ロボット工学者・石黒浩教授は、現在、大学の偏差値は、医学部・法学部・理学部・工学部の順となって、教育学部は下だが、将来は逆転すると見ている。 「医者や弁護士の仕事の大半はパターン化して再現できるから、将来的にはコンピュータ技術に置き換え可能…

一線を越えず

『ティエリー・トグルドーの憂鬱』(フランス、ステファヌ・ブリゼ )は、救いのない日々をドキュメンタリーのようなリアルさで映し出す。 家族を養うために、ティエリーは必死だ。仕事を得るために、高齢ながらも新しい技能を取得し、模擬面接で仲間から厳…

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