2016-01-01から1年間の記事一覧

終わらない希望

妻子と別れ、投げやり気味の日々を送る男。彼を挑発する女。 『オーバー・フェンス』(日本、山下敦弘)の男女は、まだ終わった年齢ではない。鳥のような飛躍を目指すことはないが、ずっと檻にいたいとも思っていないのだ。男が訓練校で大工になるための修行…

道は多彩

『ポンピドゥー・センター傑作展』(東京都美術館)は、特定のテーマにこだわらず、1906年から1977年のコレクションをたどる。 表現も生き方も、実に多彩な芸術家のいることが、再認識できる。幼少時から美術家としての教育を受けた者だけではなく、比較的歳…

人間はどこまで必要か

主人公以外は、すべてCGでありながら、『ジャングル・ブック』(米国、ジョン・ファブロー)の動物たちは、実写さながらにリアル。 人間の俳優は、将来どこまで必要なのか。現状では、CGの動きにも、俳優たちの動作が活かされているが、いずれそれも、人…

人間の負うもの

村田沙耶香『コンビニ人間』(文藝春秋)の未婚女子は、コンビニでバイトの身分。職務に忠実である限り、傑出した待遇は期待できないが、そこそこの居心地よさを継続はできる。 責任の重いポジションなら、そうは行かない。罪も失敗も引き受けざるを得ない。…

ゆるい笑いだけでなく・・・

『不思議惑星キン・ザ・ザ』(ソ連、ゲオルギー・ダネリア)は、ゆるい笑いに満ちたナンセンスSFと見せかけて、旧ソ連の実像を風刺。階級主義や一元的価値観にとらわれない相互扶助の姿勢を表明している。 繰り返しみられる映画には、見られるだけの多層的…

手段のバランス

『シン・ゴジラ』(日本・庵野秀明)は、シリーズ物大作映画のお約束事を踏まえて、制作関係者・観客を満足させつつ、ゴジラという創造物を核にして、日本という国を問い直す。タイムリーな映画だ。 ゴジラ問題と対峙して、解決を図るのは、科学者でもなけれ…

愛らしい妖怪

かわいいと言うべきが、ゲテモノと言うべきか。 CGアニメと実写アクションを共闘させた『モンスター・ハント』(中国、ラマン・ホイ)は、ハンターたちと戦う妖怪たちが、自在に動き、豊かな表情を見せる。 グロテスクだが、愛らしさもある妖怪は、まるで…

大人の功罪

『ココリコ坂から』(日本、宮崎吾朗)での少年少女も、大人の手助けで望みを果たせる。血縁関係が心配された二人の恋は無事に決着するし、文化部の建物も維持できるのだ。 若者が自由を謳歌できるのも、信頼できる大人が配慮してこそという構図が浮き彫りに…

いい人

奥田 政治への無関心は、「いい人」に支えられていると感じます。僕らは、日常の自分も含めて、「無自覚ないい人」と闘っている面もあるのかもしれない。 (「対談:原一男×奥田愛基 さようならSEALDs」『週刊金曜日』19日号) 厄介なのは、首相もメディア…

散歩したい風景

散歩したいと思わせるような風景画を好んだルノワール。 『ルノワール展』(国立新美術館)で展示された「草原の坂道」は、まさにそんな絵だ。

裏で活躍

赤狩りで表舞台から去らざるを得なかった脚本家、ダルトン・トランボ。偽名で大量の脚本をこなすことで、ハリウッドも、赤狩り推進者も、見返す。 『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(米国、ジェイ・ローチ)は、名物脚本家の実録ドラマ。したたかな…

生きる罪

『いしぶみ』(日本、是枝裕和)は、テレビドキュメンタリーの劇場編集版。 建物解体の作業中、原爆で亡くなった旧制広島二中の生徒たち。生き残った仲間や親族は、生き残ったこと自体に罪意識を持っている。 むろん、罪を負わせるべきものは、生きること以…

生きる時間

『あなた、その川を渡らないで』(韓国、チン・モヨン)は、仲睦まじい老夫婦の生活を延々と写すドキュメンタリー。おそろいの服を着て、川のほとりで仲睦まじく暮らす二人だが、病には勝てず、死の訪れを避けられない。 ただ生き続ける時間の尊さを、夫婦が…

戦中から戦後へ

戦時中、小野寺夫婦は、スウェーデンに駐在。本国の参謀本部に向け、極秘情報を配信した。日本の不利を知り、終戦に向けて路線変更を進言したが、情報は本部でもみ消され、無策のままで敗戦を迎える。 池端俊策:作『百合子さんの絵本 〜陸軍武官・小野寺夫婦…

思いの再生

日本初の長編アニメ『桃太郎 海の神兵』(日本、瀬尾光世)が、デジタル修復の丹念な作業によってよみがえった。 戦時中、徴兵でスタッフが大幅に減る中、執念で完成した本作。桃太郎指揮の下、動物たちが鬼ヶ島を制圧するという国策話を建前にしつつ、絵作…

驚異のCG

『ファインディング・ドリー』(米国、アンドリュー・スタントン)は、ナンヨウハギのドリーが、クマノミ親子やタコの協力で、生き別れの両親を探しに行く。 リアルで愛らしい海洋生物たちの活き活きした動き。CGアニメの進歩は、驚くべきものだ。

場面作り

『暗殺』(韓国、チェ・ドンフン)は、日本統治下の韓国で、独立軍のスナイパーと暗殺請負人を日本政府の密偵が戦わせる。 1930〜40年代までの場面作りを徹底。三つ巴のサスペンスとアクションに、緩みはない。

タンゴ人生

アルゼンチンタンゴの伝説的ペア、マリア・ニエベスとフアン・カルロス・コペス。タンゴとのかかわりを壮年の一時期だけで終わらせるのではない。ペア解消後、80歳を超えてもなお、踊りや指導を続けている。 愛と葛藤に満ちたタンゴ人生。『ラスト・タンゴ』…

固執

『死霊館 エンフィールド事件』(米国、ジェームズ・ワン)は、実在の事件を題材にしたホラーだ。英国の母子家庭が、住人だった老人の霊によって、日夜、恐怖にさらされる。 霊を追い払ってからも、一家は、その家で暮らす。これほどひどい目に遭ってまでも…

恐怖

『恐怖のメロディ』(米国、クリント・イーストウッド)では、ラジオのDJが視聴者の女にストーキングされる。 遊びを遊びと思わない女の執拗さは、都合のいい女を求めた男へのしっぺ返しだ。 女好きの男こそ、女の怖さも知っている。

しがらみを脱いで

崔実『ジニのパズル』(講談社)は、時代と国境を超えて居場所を見出す少女の自分史だ。 ごまかしに敏感で、生き方に不器用なほど、社会の制約が息苦しく感じられるもの。ジニには、そんなしがらみを脱ぎ捨てるしなやかさがある。

すべては地続き

困窮者の駆け込み団体で繰り広げられるシリアスな日常。生活は、あらゆる事象と地続きである。各々の意思決定も、内外の政策によって、左右されるのだ。 青年団『ニッポン・サポート・センター』(吉祥寺シアター)は、一段と洗練された群像劇によって、観る…

被写体

聴覚障害虚偽説・作曲者ゴースト説を報道されて以来、自宅のマンションに閉じこもる佐村河内守。森達也久しぶりのドキュメンタリー『FAKE』(日本)は、彼と妻のやり取りを丹念に撮影する。 彼を利用した新垣隆も、テレビ局やライターも、彼以上にうさんくさ…

偽りのホラー

黒沢清『クリーピー 偽りの隣人』(日本)は、隣に住む不気味な男の反抗を元刑事があばく。 隣人の犯行が明るみになっていない前半こそが、ホラーとして、鬼気迫る。猟奇殺人が露出して以降は、ありがちのスプラッター映画だ。 隣人による偽の娘や元刑事の夫…

ゆとりとはなにか

『ゆとりですがなにか』(日本テレビ)は、ゆとり世代のアラサー男子人のゆとり世代3人の社会人生活奮闘記だ。 仕事・家族・結婚……。それぞれの問題で、世代論ではくくれぬ個の差や新旧世代の衝突が、宮藤官九郎の脚本によって、巧妙に繰り広げられている。…

黒さの源泉

『ヒメアノ〜ル』(日本、吉田恵輔)は、快楽殺人者の森田正一がいやなやつなのは言うまでもないが、周辺もいやなやつばかりだ。旧友もストーカー相手の女も、腹黒い。森田との差は、黒さを表に出すか、内に秘めるかだけだ。 森田を作り上げたのは、彼自身だ…

妄想の幸せ

気力を失っていた哲学教師が、悪徳判事の殺害を思い立ち、俄然元気になる。ところが、計画の成功後、恋仲になった教え子からは、歓迎されるどころか、逆に責められて……。 『教授のおかしな妄想殺人』(米国)は、アレン流の教訓劇をますます軽妙に語っている…

文学の継承者

又吉直樹は、読み手としても、書き手としても、ひたすら真摯だ。 『夜を乗り越える』(小学館よしもと新書)では、自身と文学のかかわり方を誠実に綴っている。 文学界の継承者として、今だからこそ必要な存在だ。

深い人物

『海よりもまだ深く』(日本、是枝裕和)は、ダメ男にも、母や元妻など周辺の人物にも、いかにも共感を呼ぶような妥協的要素を与えられてはいない。だからこそ、彼らの存在は、いっそうリアルであり、決していい印象を与えないのに、親しみを与えるのである。 …

米国から世界へ

『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』(米国)は、物騒な題名だが、表向きは温厚なスタイルに徹している。模範とすべく各国の制度を学ぶために、ムーアがヨーロッパを訪ね歩くのだ。 教育も労働も模範は米国にあった。まるで『青い鳥』のように、ムーアは気…

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