2009-01-01から1年間の記事一覧

疑問と行動

なぜ? どうして? 金融資本主義に切り込んだ『キャピタリズム〜マネーは踊る〜』(米国)でも、率直に疑問をぶつけるマイケル=ムーアの姿勢は変わらない。 ムーアに喝采を浴びせればいいというわけではない。我々自身が、ムーア的な疑問と行動を保てるかど…

世界の継承

芸術という概念が終わっても、人に芸術という概念を生み出させた力そのものは終わることがない。それは、たとえわたしが死んだとしても世界が終わるわけではなく、私とは別の人間がこの世界で生き続けるだろうというのと同じ意味において、そうなのだと思い…

映画愛

ヒトラーらナチの高官を映画館ごと焼き殺すという『イングロリアス・バスターズ』(米国、クエンティー=タランティーノ)。 アイデアの残酷さは、映画館への甘美な夢を失っていない『ニュー・シネマ・パラダイス』と対極にあるかのように見える。 しかし、…

あの世行き

地デジ導入によって、この世から葬られることになったアナログテレビ。『おくりびと』の音楽をBGMにして、納棺師がテレビを棺に入れる。家族は、すすり泣く。 コント『ザ・ニュースペーパー Part76』(銀座博品館劇場)の一場面である。

その後の戦争

「文学と戦争の関係を現代の視点から問い直す動きが広がっている。近年の多種多様な戦争小説の背景を探る評論、戦後文学の再評価を試みる小説など、切り口はいろいろ」(「活字の海で」日本経済新聞13日) 記事では、陣野俊史の連載評論「『その後』の戦争小…

狩猟

面白いことを追うためには、面白くないことにうんと耐えなければいけません。面白い道に入っても、すぐに面白くなくなります。でも、止めてしまえば、本当に面白いとこには行かれません。(古井由吉『人生の色気』新潮社) 持続性がなければ、獲物をつかむこ…

踏ん切り

行き詰った劇作家が自分の実人生を舞台上に再現する『脳内ニューヨーク』(米国、チャーリー・カウフマン)。 舞台内外の人間関係は常に変動しており、劇作家がつかまえようとしても、いっこうに決着がつかない。準備に17年かけても、上演できぬままだ。 …

食材の行方

りんご、じゃがいも、ハチミツ、にんじん。農家の一家族を描く弘前劇場の演劇『アグリカルチャー』では、場面ごとに違う食材が登場。 一同がカレーを食する場面で終わる。

若い芸術家

最愛の夫を失いながら、80歳にしてなお、映画を撮り、前衛的なパフォーマンスも続けるアニエス・ヴァルダ。 自伝エッセイともいうべきドキュメンタリー『アニエスの浜辺』(フランス)は、いつまでも前向きで、しゃれっ気も失わないアニエスの、若々しく、り…

不況だからこそ

「不景気の時に本を読むのは、『これからどうすればいいのかな――』と考えざるをえなくなるからです。本というものは、人を立ち止まらせて考えさせるものだから、この目的にかなっているのです」(橋本治『大不況には本を読む』中公新書ラクレ) 国内の経済が…

タフな悪党

フランス人好みの反体制的性質を兼ね備えているとはいえ、徹底した悪党を主人公にすえて、観客をひきつけるのはむずかしい。『ジャック・メスリーヌ』2部作(フランス、ジャン・フランソワ・リシェ)の力強い演出は、そんな危惧を吹き飛ばす。 強盗、誘拐、…

執筆とアイデア

「書けば書くほど、書きたい本のアイデアが増えて、実は、百歳まで生きて、年に五冊ずつ本を出していっても頭の中にあるアイデアは全部書ききれないことがもうわかっております」(夢枕獏『本の雑誌』12月号掲載) 息を吐いた分だけ、吸う。酸素が多いほど、…

恋の気分

虚言癖があったり、不可解な行動をとる画学生ユジョン。そんな彼女に惹かれていく画家ソンナム。 妻のいるソンナムに恋心が芽生えたのは、妻のいるソウルを離れて、異国の地、パリに来たからでもある。 『アバンチュールはパリで』(韓国、ホン・サンス)に…

忍び願望

セキュリティーの厳重な現代では、他人の家に忍び込んで睡眠薬入りの砂糖瓶を置いたり、眠っている相手の爪にペディキアを塗るというような行為は難しい。 中年男を大胆に行動させた『アンナと過ごした4日間』(フランス、イエジ・スコリモフスキ)は、独身…

親のスタンス

殺人の被疑者となった我が子に親がどう対するか。世間の目と一緒になって糾弾するのか、それとも、別の可能性を見出そうとするか。 『母なる証明』(韓国、ボン・ジュノ)の母親は、少なくとも、世間主義に流れがちな日本の親とは、様相を異にしている。

貧困の時代

「日本人はアジアの片隅の小さな島国で、ずっと貧しさに慣れて、つつましいながら独自の文化を築き上げていた。貧しさが似合う国民なのだ」(岡崎武志『あなたより貧乏な人』メディアファクトリー) 旧時代の貧困と、現代の貧困とでは質が異なるだろうが、貧…

妊娠と出産

五反田団の『生きてるものか』(池袋・東京芸術劇場)では、死者が蘇り、死ぬ前の時間を再生。妻のお腹に夫が耳をあて、胎児の動きを確認する場面で終わる。 脚本は、旧作の『生きてるものはいないのか』同様に前田司郎だが、とくに男性作家の場合、女性の妊…

ゆっくり生きる

「疲れをいやすのに酸素を使うのは短いスパンでは疲れが取れていいのですが、長い目で見ると行き急ぐ流れになっています。本来はからだを休ませて疲労を回復させるべきなのに、無理やり疲れをとってしまう危険な生き方なのです。 長生きの条件は、忙しく生き…

フィクションの定義

「問題の本質は、その問題が顕在化する前の段階に潜んでいるのです。問題を直接扱ってしまうと、対症療法になってしまう。……問題の所在自体があいまいであったり、価値観がずれている人がいるなど、フィクションの要素を入れていかないと本当の意味でのロー…

愛ではなくて…

退廃のあとの和解、絶望の中の希望。 『ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ』(日本、根岸吉太郎)に描かれる小説家夫婦の関係には、「愛」という一言では収まらないものがある。

訴訟社会

ドナー役を強要された娘が両親を訴える。 11歳で分の悪い原告に、弁護士や判事が協力。家族の絆も、かえって深まる。 『私の中のあなた』(米国、ニック・カサヴェテス)には、訴訟社会の理想像がある。

作家の強さ

「希望や喜びを持たない語り手が、我々を囲む厳しい寒さや飢えに対して、恐怖や絶望に対して、たき火の前でどうやって説得力を持ちうるだろう?」(村上春樹「物語の善きサイクル」『モンキービジネス』Fall vol.7 物語号) 虚無感に浸るのはたやすい。 だ…

飽食社会

魚ばかり食べていた人間たちがファーストフードや肉の味を知り、好きなときにいくらでも食べられるようになったら……。 リクエストに応じて空から食べ物が大量に降ってくる『くもりときどきミートボール3D』(米国、クリス・ミラー、フィル・ロード)。 恩…

日記としての実作

「『本』は、一人の者によって書かれるのでもなく、一人の者によって作られるものでもないのだから。それは、書いた者にとっても、読みなおすために、書かれたのだ」(金井美恵子『岸辺のない海』河出文庫の著者あとがきから) その年齢、その時点での心境や…

空気人間

心を持ったラブドールと孤独な人間とのかかわりを通して、人間の空虚感を表現した『空気人形』(日本、是枝裕和)。 そもそも、人間の幸福とは何か。それを突き止めることなく、空気が抜けるまでの間、惰性で生きているのが人間のようである。

悪役の背負うもの

米国のスターは、テンションの高い悪役を演じるのがうまい。『サブウェイ123 激突』(米国、トニー=スコット)で、鉄道職員を翻弄する地下鉄ジャック犯を務めたジョン・トラヴォルタも、その一人である。 高度な知能と激情的な神経を併せ持つ犯人には、米国…

聞く

「聞くとは、自分自身の身体からわきあがるものをひとまず押さえ込んで相手の言葉に細心の注意を払い、しかもただ受け止めるだけではなく、いまのいままで考えもしなかった、自分自身をも驚かすような表現が口をついて出るほどの反応を可能にする行為なのだ…

板ばさみ

「デザイナーとしてはカタチを洗練させたい。しかし絵描きとしては洗練されたカタチはつまんない。この板挟みの中に、自分が見落としている重要な事柄がある気がしているんですが、よくわかりません」(紀藤文平「疑モンモン」『週刊金曜日』9月25日号) 板…

創造の源泉

女性の生き方も衣装も不自由だった時代に、彼女は、ドレスに不満でカーテンを切り裂いて服を仕立て、海辺の婦人たちの服装にも、違和感を口にする。 既製のデザインに不満がなければ、新しいデザインを考えようなどという気にはなるまい。 『ココ・アヴァン…

愛の表現

「十八世紀の恋の文句や、愛の表現は現代人の我々の感覚には肌に合わない。合わぬどころか、それはかえって我々には大時代的な、誇張されたものに見えるのであります」(遠藤周作『十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜…

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