2009-01-01から1年間の記事一覧

世界の創造

画像がいかに精密であっても、実写に近付けば近付くほど、絵としてつまらなくなるというのが、CGアニメの陥りがちな病である。 『ホッタラケの島 遥と魔法の島』(日本、佐藤信介)は、そんな病に感染していない。 キャラクターも背景も、現実とは異なった感…

書く快感

穂村 小説だったらもうこの先二度とそれを読む人がいなくても書こうとする理由は何ですか? 川上 それは多分、書くっていう事が単純に編み物をするという感じの……。 穂村 快感? 川上 そう、快感ですね。人さまに見せるためには辻褄を合わせたり、お話を最後…

共同生活

『南極料理人』(日本、沖田修一)は、料理人の目を通して、基地と家庭の日常を対比する。 共同生活でのぎくしゃくは、どちらの世界にもあるが、料理の腕前が隊員や家族のわだかまりをほぐしていく。 ぎくしゃくを解消する手段は、人それぞれだろう。

本物のアクション

特撮の進歩のあまり、よほど派手な場面でない限り、観客は驚かなくなった。 だからこそ、特撮に頼らない『グッド・バッド・ウィアード』(韓国、キム・ジウン)の荒野における長時間の銃撃戦は、貴重だ。 スポーツをライブ観戦するときのような興奮を覚えるこ…

子どもの旅

携帯電話に残されたわずかな手がかりから、娘をさらった犯人たちへの接触手段を割り出す。 『96時間』(フランス・米国、ピエール・モレル)の父親は、元CIA工作員ならではの情報収集力と執念を見せる。 17歳の娘にとって、危急時にこんな父親がいれば心強…

運命

『縞模様のパジャマの少年』(英国・米国、マーク・ハーマン)では、いたずら心から収容所に潜入してしまったばかりに、ドイツ人少年が悲劇に見舞われる。 運命は残酷だ。 少なくとも、塀の中にいるわけでもなく、ガス室に放り込まれることもない点だけでも、…

プロの条件

「一流の遅いピッチャーは相手に向かっていくんです。体に近いところにわざと投げたり、ど真ん中狙ったり。そういう強気の球を入れていかないと相手が引っかかってくれないから。……球が遅くても、体が小さくても、いく。そんな選手がプロでも残るんです」(…

屋根裏の世界

人間ならガラクタと思って捨ててしまうような古い人形たち。 『屋根裏のポムネンカ』( 日本・チェコ・スロヴァキア、イジー・バルタ)の人形たちは、人間の知らない世界を楽しんでいた。青い目の少女人形は屋根裏のアイドル。彼女が悪の支配者にさらわれ、…

抵抗運動

旧時代の学生運動や運動部のごとく、若者が精神論をわめき叫ぶ現代版『蟹工船』(日本、SABU)と違い、『バーダー・マインホフ 理想の果てに』(ドイツ・イタリア・チェコ、ウリ・エデル)の青年テロリストは、残虐性はともかく、対象の選定も報復手段も…

打算とは別に

家族のために志を捨てて打算的な手段で金を稼ぐことがあたかも美徳であるかのような意識が、日本人にはある。 『3時10分、決断のとき』(米国、ジェームズ=マンゴールド)の牧場主が、家族に見せた生き方は違った。強盗団のボスが、あえて逃走をせず、護送…

濃度

「人の意見を聞きすぎると、純度が下がっていくからダメですよ。見やすいとか、分かりやすいものになるかもしれないけど、その代わりに失うものも大きい」(本谷有希子談―劇団、本谷有希子『来来来来来』の公演プログラムから) 本公演(本多劇場)では、鳥…

情報操作

イスラエルは、インターネットに特化した情報工作部隊を発足した。政府批判の記事に対抗することが目的であり、国籍を隠してコメントを投稿したり、親イスラエルのブログを立ち上げるのだという。(「国際短信」『週刊金曜日』8月7日・14日合併号参照) 情報…

時間

被爆した妻、寝たきりの母、結婚する息子、成長する孫……。 アマチュアだった川本昭人が8ミリで撮影し続けた家族の記録『妻の貌』(日本)には、苦難も喜びも生死も体感しつつ、生き続ける人間の姿がある。

世界は一家

ごちゃごちゃした田舎の大家族とバーチャル世界の空間を結びつけるという離れ業を達成した『サマーウォーズ』(日本、細田守)。 一家だけではなく、仮想空間を利用する世界中の人々が、宿敵の打倒に協力するという展開は、一握りの人間だけが世界を相手にす…

食欲の奥底

肥満の要因が暴食であるにせよ、彼女たちは、いつまでも食欲を我慢できるわけではない。暴食をもたらした根本の原因は内面に潜んでおり、成長時の家庭環境が大きくかかわっている。 かくして、映像監督の関口祐加が自身のダイエットを記録した『THE ダイエッ…

選択

テレビ版エヴァの最終回では、体験する世界を自分で選択できることを主人公のシンジが言い渡される。 同様に、エヴァのストーリー自体、何通りもの作成が可能だ。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(日本)も、その一つである。 しかし、同じ作品にばかり、…

偽装問題

これまで慕っていた医者の正体が偽者であるとわかった途端、村人の態度が急変する。あいつは元から怪しかったなどと、悪く言う。 利用価値がある限り、本物であり、無くなれば、偽物である。騒ぎになるのは、ブランド価値が無くなるからにすぎない。 『ディ…

反復

「20代の終わりにデ・キリコの作品と出合って『僕の性格を表している』と思った。彼は同じモチーフを反復しながらもいろいろな技術を導入して、万華鏡のごとく拡張していったんです」(横尾忠則談「1冊の本が、僕たちの人生を動かした。」『Pen』8月1…

男の決着

かつてスターレスラーだった男も、年をとった。肉体に不安をかかえ、一度は引退。名誉挽回のため、リングに復帰する。唯一誇れるのはリングの上だけだからだ。 ミッキー・ローク主演の『レスラー』(米国、ダーレン・アロノフスキー)は、熟年男性ならではの…

文字を読む

文字の読めるのが当たり前という認識が、日本の老若男女にはある。 『愛を読む人』(米国・ドイツ、スティーブン・ダルドリー)の女は、知識水準が低いわけではないが、文盲だった。その事実を隠すことで、受刑者にならざるをえなくなる。 彼女は名作文学を…

文化の根底

「今世紀の日本文化の根底を見きわめようとすると、われわれ自身において内面化された日本近代史の二つの条件、東北アジアの伝統と西洋の近代に出会う」(『加藤周一セレクション2 日本文学の変化と持続』99年、平凡社ライブラリー) 国内の文化を検証する…

価値

「周りの人はバンバン捨ててたんですが、僕はもったいないなと思ってとっておいたんです。そしたらある時、たまった紙がキレイなものに思えてきて。デザインの素材でもつくろうかなと、ちぎって並べてみたんです」(引地渉・談『イラストノート』№9) 他人が…

ついたての向こう

高橋 たとえば舞城(補・王太郎)さんの『好き好き大好き超愛している。』とか、あれは超リリックな恋愛小説なのにさ、何か不安なんだよね、読んでると。 斎藤 そうそう(笑)。 高橋 全部嘘みたいな気がしてくる。読めば読むほど、ついたての向こう側に誰も…

設定

宮藤 山田さんの『ありふれた奇跡』で、風間杜夫さんと岸部一徳さんが女装して街を歩くシーン。あれはパンクを感じました。 (中略) 山田 日常から逸脱しようとする、あがきみたいなものを書きたかったんですよね。でも大麻とかホモセクシュアルだと重すぎ…

作家性

「高利貸しの女を殺す貧乏学生の話は、新聞記者やジャーナリズム的技法の客観性にこだわる作家の手にかかれば大都市で起きるありふれた事件にしかならない。世間に似たような話はいくらでもある。だがドストエフスキーが手掛ければ結果はまったく違う」(エ…

防衛策

テレビ版『ハゲタカ』の鷲津は、敏腕な投資家として、非情さと人間味の両面を兼ね備えていた。 映画版(日本、大友啓史)では、日系の自動車メーカーを中国ファンドの買収策から防衛するために、宿敵・芝野と共闘。正義派に徹したために、悪人的な部分が影を…

精神

カメラに向けて話をしているときは、さほど異常性を感じさせない。ドキュメンタリー『精神』(米国・日本、想田和弘)の精神病患者たちだ。 ところが、人前に出ていないときに多量の薬を飲んだり、深夜などに激しく精神を変調させるという。元気そうに見えた…

フィクションの需要と供給

「前向きでハッピーな感じの作り話をいかに白けないで届けさせるかっていうのが、いちばん書き手として頑張ることのような気がしています。……わざわざフィクションを読まなくても、世の中ってたいへんだよねとか、人間って愚かだよねっていうのを、みんな知…

文学とことば

「いまもっとも、読まれていないものは、何か。文学書だ。そのなかでも読まれないのは、詩集、詩の本。詩とのかかわりがなくなってから、人の心が変わったのではないか。だからいまはむしろ詩が必要なのではないかと、考えることにしよう。詩を読むのはこと…

物語の誕生

「私の場合、最終話に限らず、ストーリーを考えるときには、頭から流れを決めていくのではなく、メインになる一枚絵を思い描いて、そのまわりをちょびちょび肉付けしていくんですね」(「荒川弘ロングインタビュー」『ダ・ヴィンチ』6月号) 点が線となり、…

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