2008-02-01から1ヶ月間の記事一覧

骨太

マフィアに屈せず、ハーレムの麻薬王になったフランク・ルーカス。汚職全盛の時代に賄賂を受け取らなかった警官リッチー・ロバーツ。 『アメリカン・ギャングスター』(米国、リドリー・スコット)の主役は、実在の人物である。 権威に従順な日本人とは違う…

小説の中で

小説を書く仕事とは、自分の中にもうひとつの世界を作り、それをとめどなく広げていくことである。今生きている現実と、小説世界の中の現実。仕事が増えれば、幾つもの世界を抱えることになり、その作業は確実に、生の現実の方を蝕んでいく。蝕まれたくなけ…

だれのせい?

両親が共産主義者に転向し、裕福な生活が貧しい暮らしに急変。『ぜんぶフィデルのせい』(イタリア・フランス、ジュリー=ガヴラス)の少女アンナは、最初こそ、文句を言うが、自身の体験から学んで、だんだんと公正な世界に目覚めて行く。 先入観を取り払っ…

男の視線

26歳の娘、江古田ちゃん(瀧波ユカリ『臨死!! 江古田ちゃん』講談社)は、いつも男を意識している。彼女が暴露するのは、女には知られていて、男には知られていない本音である。天性の持ち味で男に好かれる女を猛禽類と呼んで嫌悪しつつ、気になる男を独占で…

「そこまで」でない人

評判になった広告、いいと思うコピーを見たとき「センスがあっていいなあ」と思うか「このコピーのどこがいいんだろう」と思うか。よいコピーライターになれるのは後者です。なぜ自分は惹かれたのかを分析してみる。……裏にある技術を探すべし。センスとか感…

悪人たち

『ジェシー・ジェームズの暗殺』(米国、アンドリュー=ドミニク)は、人間を美化しない。 西部開拓時代の強盗犯、ジェシー・ジェームズ。少年を殴打し、仲間を殺す。子どもたちとじゃれあうかと思えば、家族の眠る自宅で、仲間を脅迫する。ときどき、急に嗚…

リサイクル

リサイクルには、コストもかかるし、エネルギーも必要だ。だから、無意味だと言う意見がある。 トータルで見たら、どうなのか。 製品のコストを、原材料の調達、製造、消費、廃棄というサイクル全体で考えれば、リサイクルのほうが断然割安になる。……新しい…

現実ウォッチング

いわゆる現実主義者は、自分たちがかつて味わった狭い体験が繰り返されることを信じて疑わない。個人的体験の共有を他者に強要しがちである。 しかし、現実に整合性があるとは限らない。一個人の体験でとらえるには、現実は、あまりにも不可解である。 現実…

意識

古井由吉の短編『潮の変わり目』(講談社『白暗淵』収録)では、男が罹災者時代の記憶をたぐりよせる。 子どもの頃だ。洗い場でバケツに水が溜まるのを待っていた。 あの人たちも自分も、皆もうじきに死んでしまうのだった、と子供は目をひらいた。……どうせ…

幸せな親子

親子の影響が、反目による磨耗ではなく、敬意に満ちた相乗効果ならば、それにまさることはない。 印象派の画家、ピエール=オーギュスト=ルノワール。その次男、映画監督のジャン=ルノワール。二人の作品を展示した『ルノワール+ルノワール展』(渋谷、Bu…

弱者と人間

野生動物の世界でも、強者が狙うのは弱者だ。 ドキュメンタリー『アース』(ドイツ・英国、アラステア=フォザーギル、マーク=リンフィールド)では、ホッキョクオオカミがトナカイの子どもを追いかける。大人を狙っても、脚力ではかなわない。子どもならば…

過去より未来

男社会のイランでは、離婚した女性は肩身が狭い。 『ペルセポリス』(フランス、マルジャン・サトラピ、ヴァンサン・パロノー)のマルジは、若くして夫と離縁。失意の彼女を離婚歴のある祖母が励ます。離婚なんて人生の予行演習さ、と。 政権が変わるたびに…

間違いあれど

『迷子の警察音楽隊』(イスラエル・フランス、エラン・コリリン)では、エジプトからイスラエルにやってきた警察音楽隊が、誤って一字違いの町に来てしまう。仕方なく、その小さな町で一夜を過ごすのだが、現地の人々との間にささやかな出来事が起こる。 間…

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