いわゆる現実主義者は、自分たちがかつて味わった狭い体験が繰り返されることを信じて疑わない。個人的体験の共有を他者に強要しがちである。
しかし、現実に整合性があるとは限らない。一個人の体験でとらえるには、現実は、あまりにも不可解である。
現実界とは、ゲームの進行を左右する一連の偶然的で複雑な状況の全体、すなわちプレイヤーの知力や、一方のプレイヤーの心を乱し、時にはゲームを中断してしまうような、予想外の妨害などである。
(スラヴォイ=ジジェク、鈴木晶・訳『ラカンはこう読め!』紀伊國屋書店)
予測が裏切られること、体験が個別であること。このことを前提に見つめるのでなければ、現実は目の前から逃走してしまう。