2021-11-01から1ヶ月間の記事一覧

贋作の哀しみ

種田山頭火の直筆日記に贋作が混ぜられたことが発覚。出版社が全集の該当箇所を削除した。『週刊金曜日』5日号掲載の記事(粟野仁雄氏)で、研究者の証明や俳句仲間の改ざんが報告されている。 捏造者は、山頭火を利用し、自身の評価を高めようとしただけな…

描く喜び

専門的な教育を受けたわけでもない。若き日から才能を発揮したわけでもない。50代になり、独学で油絵を初め、家族の死や自身の認知症をものともせず、描き続けた画家の厖大な作品が、『塔本シスコ展 シスコ・パラダイス』(世田谷美術館)で披露された。 技…

作家の信頼

自伝的小説が曲解され、批評文が全国紙に掲載されたことで、地方在住の家族が被害を受けかねない事態に陥る。作家は、SNSや媒体の新聞社を通じて、批評家と対話するが、論点はかみ合わない。文壇や読者には理解者もいるが、一方で文学界の閉鎖性や読解の基本…

思考停止の前に

毒性が弱い半面、蔓延時期の長期化するコロナへの対策に、自粛要請や緊急事態宣言が必要なのか。欧米よりも免疫力のある日本の風土で、治験実績の乏しいワクチンを普及すべきなのか。 インフルエンザなどとの比較検証から、昨今の方策に一貫して疑義を唱えた…

彼女たちの小宇宙

定番ラブコメの三角関係ではない。いわゆる同性愛物とも違う。親や教師の抑圧もあるが、彼女たちの世界を決定的に圧殺するほどではない。『ひらいて』(日本、首藤凜)は、は高校を舞台に、美少女だが、つかみどころのないヒロインと、病弱な親友、陰のある…

騎士の物語

『最後の決闘裁判』(米国、リドリー・スコット)が騎士同士の確執を描くだけなら、中世の標準的な物語に終わったろう。後半、騎士の妻が夫の友人に強姦されたと告白することで、たちまち現代性を帯びた展開となる。 裁判を占うのは、証拠調べではなく、原告…

任務の幻

兵士ではなく、スパイ。任務のために農民でさえ、殺し、食料を奪い、戦後になっても、潜伏し、生き残った上官の指示なくしては、帰還しなかった男。『ONODA 一万夜を越えて』(フランス・ドイツ・ベルギー・イタリア・日本、アルチュール・アラリ)は、功罪…

走るだけの彼に

自分では、どうしようもない弱さもある。『草の響き』(日本、斎藤久志)の主人公は、妻を連れて、東京から函館に戻る。病院に通い、心の治療をするが、いっこうに治癒しない。日課は、ひたすら走ることだ。友人に見守られ、ときには、泣く。父に、だらしな…

腐敗の対抗馬

ライブハウスの火災事故で病院に担ぎ込まれた若者たちが次々に亡くなったのは、火傷によるものではなく、病院の設備や消毒薬の不備が原因だった。『コレクティブ 国家の嘘』(ルーマニア・ルクセンブルク・ドイツ、アレクサンダー・ナナウ)は、ルーマニアの…

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