走るだけの彼に

      自分では、どうしようもない弱さもある。『草の響き』(日本、斎藤久志)の主人公は、妻を連れて、東京から函館に戻る。病院に通い、心の治療をするが、いっこうに治癒しない。日課は、ひたすら走ることだ。友人に見守られ、ときには、泣く。父に、だらしなさを叱咤されても、どうにもならない。子どもを身ごもった妻からは、慣れない土地が合わないと、告げられる。

      主人公は、変われない。症状が改善されたかに見えても、心身は望んでいない。病院の囲いを越えて、走り出す。自分が自分のままでいることだけが、救いだ。

      ただ走るだけの彼に、草原が寄り添う。

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