2010-01-01から1年間の記事一覧

ギャグも使いよう

発砲事件に巻き込まれた息子を救うため、郵便局員が職場の仲間と結束して、ギャングと対決する。 弱者の味方、ケン・ローチは、『エリックを探して』(英国・フランス・イタリア他)で暴力的手段は採らない。You Tubeやかぶり物を効果的に使って、一泡吹かせ…

人生は偶然

偏屈な老物理学者が能天気な田舎娘と結婚し、教育ママが突然アート写真に目覚めて二人の男と同棲……。 人生偶然論が、『人生万歳!』(日本)では、楽天的に語られる。 ロンドン・ミステリーでは運命を悲観的に解したウディ・アレン。対照的な作品を撮ること…

戦争と日常

戦士となれば、割り切って戦うかと思いきや、『レバノン』(イスラエル・フランス・英国、サミュエル・マオズ)の戦車兵たちは、日常の感覚を残したまま、進軍する。そのため、戦闘中でも、臆病になったり、揉め事が絶えない。 繊細な精神を露出すれば、敵に…

都市の叙景

古い時代のようで、今もありうる。決して明るくないが、見守る者を穏和な気持ちにさせる。 『海炭市叙景』(日本、熊切和嘉)には、そんなエピソードが詰まっている。 どんな都市にも、無名の人間たちに形作られた叙景があるのだろう。

帰る場所

何度も生命の危機に陥り、断酒を誓いながらも、浴びるように酒を飲み続ける男。周囲が冷たいわけではない。母も元妻や娘たちも、彼を慕い、優しい。それでも、飲んでしまう。 『酔いが覚めたら、うちに帰ろう』(日本、東陽一)の主人公は、初めから死ぬこと…

家族の風土

家庭で追放された次男が5年ぶりに戻ってきた。白血病の母に骨髄を提供するためだが、母は、もとより、長女も彼を嫌っている。 日本の家族劇ならば、じめじめしたものになりがちだ。フランスの『クリスマス・ストーリー』(アルノー・デプレシャン)では、冷…

魔法と現実

回を重ねるごとに、現実に近付き、シリアスな内容になっていく「ハリー・ポッター」シリーズ。 最終編『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』(英国・米国、デイビッド・イェーツ)では、分霊箱を探す味方同士でさえ、亀裂が生じる。ハーモニーとの関係を…

画を見る

日本のストーリー漫画と違い、ニコラ・ド・クレシー『天空のビバンドム』(飛鳥新社)は、ページをすばやくめくらないほうがいい。 ストーリーや言葉を追いかけるのではなく、絵をゆっくり眺めるのだ。 一枚一枚の画を見つめれば、作者の意図とは別の物語が…

帰郷

太宰治の風土記を舞台化した『津軽』(長谷川孝治・脚本・演出、新宿・スペース・ゼロ)。 久しぶりに帰郷し、重々しく歩く中年作家。彼の周りを一輪車に乗った少年たちが疾走する。 軽快感、やんちゃさ、純朴さ。 男は、それらを失ったのか。まだ残している…

貧しさの哲学

『ゲゲゲの女房』(日本、鈴木卓爾)の武良一家は、税務署員も不審に思うほどわずかな収入で暮らしている。 貸本漫画家しげるの安い原稿料と質屋からの借金が頼り。米でさえもツケ払い。それでも、戦場のように命を取られるわけではない。 今が苦しく、先も…

少女の思い出

自分をだまして児童施設に追いやった父。仲良しになってから養父母のもとへ去る仲間。 『冬の小鳥』(韓国・フランス、ウニー・ルコント)の繊細な少女には、酷な仕打ちだったろう。だが、成長の過程には、こうした裏切りに耐える強さが必要なのである。 自分…

コレクター

転売目的ではない。ペット同様、気に入ったものだけを集める。 ドキュメンタリー『ハーブ&ドロシー』(米国、佐々木芽生)の老夫婦が40年かけて集めた作品は、トラック5台分。ささやかなお金を費やし、小さなアパートに入る大きさのアートだけを買い求めた…

誕生の表裏

医院での自然分娩が称えられるだけならば、『玄牝(げんぴん)』(日本、河瀬直美)は、ただの癒し系ドキュメントにしかならなかったろうが、医院のやり方に合わなかった妊婦や、院長の体制に疑問を呈する産婦、院長に親子関係の断絶を宣言する娘の発言をと…

小説と犯罪

世間ふつうの判断で弁護の余地のない犯罪ほど、小説家の想像力を刺戟し、抵抗を与え、形成の意慾をそそるものはない。なぜならその時、彼は、世間の判断に凭りかかる余地のない自分の孤立に自負を感じ、正に悔悟しない犯罪の自負に近づくことによって、未聞…

世界の構造

天井からつるされた紅白の縄は、東京タワーであり、出口への通路だった。五反田団『迷子になるわ』(池袋・東京芸術劇場)は、世界の構造を装置としても表現している。 現在と過去、居場所と異空間を、演劇ならではの反転作用によって、つないでいく。 移動…

ときにはコミカルに

1960年初頭のフランスが舞台とあって、『プチ・ニコラ』(フランス、ローラン・ティラール)の世界は、小学校も会社も、コミカルで、のんびりしているが、デザインセンスの良さもあって、観客を心地よい気分にさせるだろう。 殺伐した世界を見たがる一方、穏…

幸福の存在

『ルイーサ』(アルゼンチン・スペイン、ゴンサロ・カルサーダ)の老女は、規則正しい生活を続け、人付き合いが大嫌い。そんなルイーサが60過ぎで突然の失職。まともな退職金もなく、電気代さえ払えない。 生きるためならば、行動を変革するしかない。彼女が…

もう一つのペンネーム

『消えゆく「作家像」』(朝日新聞29日夕刊)によれば、すでにペンネームを使っている作家が、別の筆名を使ったり、共作で別名を名乗っているという。 著名な作家名は商業的に利用しやすい一方、イメージを固定化させる弊害もある。もう一つのペンネームは、…

小説の意識

斎藤美奈子は、〈リアリズムから外には半歩たりとも出ようとはしない〉といういわゆる旧型の同人誌と、文芸誌を比較しつつ、前者の小説に欠けている部分を指摘する。 釣りや演劇という古典的な道具立てでも読者を異次元に誘うことはできるのだ。〈「今の話、…

21世紀の映画

映画は、資本主義とか社会主義とか、そういった国家権力が意図的に作り出そうとしない限り存在できない芸術です。……そのために、映画は世界と世界が対立している最前線に立たされる運命にあり、いつ総攻撃を受けて崩壊してもおかしくない状況にあるのだ、と…

楽しんで作る

ロマンチック・アクション『ナイト&デイ』(米国、ジェームズ・マンゴールド)は、こんなばかなと言いたくなるような場面の連続。男女が暗殺者に追撃される展開は、本来深刻なはずだが、まるでギャグのように見える。 ご都合主義を承知のうえで、スタッフが…

他者のとらえ方

5時間近い大作『ヘヴンズ ストーリー』(日本、瀬々敬久)は、復讐の連鎖といったテーマよりも、他者に対する評価の格差が興味深い。 ある人にとっては大事な人間が、別の人にとっては単なる罪人だったり、虫けらだったりする。自分と相手との関係次第で、大…

物語の寿命

僕がこんなことを言うのはなんだけど、何度読み返したところで、わからないところ、説明のつかないところって必ず残ると思うんです。物語というのはもともとがそういうもの、というか、僕の考える物語というのはそういうものだから。だって何もかもが筋が通…

夫婦の境地

『ある結婚の風景』(スウェーデン)は、6話からなるテレビドラマ。巨匠イングマール・ベルイマンが監督と脚本を務めただけあって、夫婦間のやりとりは厳しい。 理想の夫婦。傍目には、そう見えたが、お互いに本音を隠し、決して譲らなかった。すべてをぶち…

複雑化の反動

作品としての出来はともかく、複雑化した時代だからこそ、受けるドラマもある。 少女漫画が原作の『君に届け』(日本、熊澤尚人)は、純粋な高校生たちの友情と恋愛を徹底してベタに表現することで、観客の涙腺を刺激する映画だ。 時代が流れても、感情の源…

芸術的感性

草木に話しかけ、部屋にいるときに大声で歌う。 そんな中年の家政婦が身近にいたら、周囲は顔をしかめ、おかしな人だと陰口を叩くだろう。 だが、そんな人間こそ、常人にはない芸術的感性に恵まれているかもしれないのだ。 『セラフィーヌの庭』(フランス・…

少数派の戦略

わずか十三人の侍が、三〇〇人の軍勢を迎え討つには、どうするか。 リメイク版『十三人の刺客』(日本、三池崇史)では、落合宿での力戦よりも、刺客が知恵を絞る前半のほうが、興味深い。 少数派ゆえの戦略は、現代でも示唆に富む。

準備と破壊

ハプニングは監督の中で想定内ではあったが、実際に誰がどのように動くかなんて演出しきれるはずがない。事件を予想しつつ、流れをコントロールしない。だからこそ映像に臨場感が増す。 (松江哲明『セルフ・ドキュメンタリー』河出書房新社) ドキュメンタリ…

他者

殺人を犯した青年も、メル友や祖母にとっては、大切な人間だ。一人の人物が、どうでもいい相手なのか、そうでない相手なのかは、受け手によって異なる。 殺人犯とメル友の女が逃避行をする『悪人』(日本、李相日)。力点は善悪の評価ではない。他者を見るス…

おまじない

月子の母が突然連れてきた年下のヤンキー青年。近所の大家や町医者。みんな人情的だ。 『オカンの嫁入り』(日本、呉美保)は、一見、ファンタジーにも見えるが、月子は、外の冷たさも体験している。 会社ではストーカーまがいの同僚に脅され、彼のためにも…

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