誕生の表裏


 医院での自然分娩が称えられるだけならば、『玄牝(げんぴん)』(日本、河瀬直美)は、ただの癒し系ドキュメントにしかならなかったろうが、医院のやり方に合わなかった妊婦や、院長の体制に疑問を呈する産婦、院長に親子関係の断絶を宣言する娘の発言をとらえることで、医院という共同体の存在感を立体的に浮かび上がらせている。
 それだけではない。意図せぬままに聖人化されてしまった吉村院長のジレンマまでもが、率直に語られているのだ。
 赤ん坊という命の誕生をきれいごとだけで片付けてはなるまい。命にかかわる人間の表裏は、生と死の関係に連係している。 

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