2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

危険な人々

姪である著者が、米大統領一族について赤裸々につづった『世界で最も危険な男』(メアリー・トランプ、草野香ほか:訳、小学館)は、低次元の暴露本ではない。臨床心理学者の立場で叔父の人間性を解析したもので、人格の形成には親族が大いに関与したことも…

記録の意義

1950年代後半、「反右派闘争」の標的として罪を着せられ、収容所に強制送還された人たち。わずかな生存者が当時を語った。 8時間を超える『死霊魂』(フランス・スイス)。劇場向きとは言い難いが、ワン・ビンにとっての集大成である。 劣悪な環境のもと、飢…

グループの記録

コロナで春の上映が延期され、ようやく公開された『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』(日本、高橋栄樹)。結果として、センター平手友梨奈の脱退やグループの解散を追加することになった。 少女たちの危うさという、もっともらしいテーマでとらえる…

他者に対して

障害をかかえる者同士だからといって、円滑に付き合えるわけではない。症状がすべて個人差があり、受け止め方も対処法もまちまちだからだ。『友達やめた。』(日本、今村彩子)は、ろう者の監督が、アスペルガー症候群の友人との付き合いを撮影している。 長…

人間の居場所

重度な自閉症児を受け入れる唯一の場所は、無許可の施設であり、資格のないスタッフが働いていた。運営者や働き手に悪だくみをしようと考えている者は一人もいない。国や公共機関の保護対象にない自閉症児。これまでは、監禁されたり、薬で無反応にさせられ…

思い出の条件

亡くなった姉とのかかわりを、手紙の代筆者である娘を経由して、元恋人や妹がたどる。日本版『ラストレター』と大筋は同じでも、キャストや風景、トーンを変えることで、『チィファの手紙』(中国、岩井俊二)は、より自然で抑制の取れた味わいになっている…

あの頃少年たちは

1990年代のロサンゼルス。家で兄にいじめられている少年が、スケートボードに熱中する不良仲間に入り、一人前の気分に浸る。 少年たち個々の事情は背後に忍ばせたままだ。『mid90s ミッドナインティーズ』(米国、ジョナ・ヒル)は、当時の音楽にのせて疾走…

映像のファッション

ルームメートが突然シングルマザーとなり、女二人の快適な共同生活は一変。『Daughters(ドーターズ)』(日本、津田肇)は、そこからストーリーや人間関係をドラマティックにいじるということはしない。凝るのは、場面ごとの色彩や装飾だ。映像がファッショ…

境界線の演劇 

死体となった元夫。家出したはずの夫。彼らとかかわる妻もまた、存在自体があやふやだ。彼女の口内には海が広がり、歯が底にある。 前田司郎が得意とするあいまいな境界線を描いた五反田団『いきしたい』(こまばアゴラ劇場)は、コロナ対策とやらでわずか1…

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