2010-04-01から1ヶ月間の記事一覧

なぜ撮るか

その時(短編映画を作ったとき)も今(長編映画でデビューした後)も、私の単純でシンプルな原則は“自分が見たいと思う映画を撮る”である。こんな映画が見たいけど誰も撮らないから自分で撮って自分で見よう。そんな基本的な衝動がある。(ボン・ジュノ談――『…

抵抗

『抵抗 死刑囚の手記より』(フランス、ロベール・ブレッソン)の死刑囚フォンテーヌは軍人であり、運動家だ。監獄脱出の手口には詳しいが、自分一人の力で脱出したわけではない。フランス人の同胞に脱出法を開示して、道具を調達した。 同房の少年兵も味方に…

惨劇の映画

初登頂よりも、ライバルの救助を優先させ、そのために相手も自隊も全員死亡した。 結果を考えれば、『アイガー北壁』(ドイツ・オーストリア・スイス、フィリップ・シュテルツェル)のドイツ人登山隊の惨劇を、いたずらに美談で、とらえることはできまい。 …

経験

アルベール・カミュ、岩切正一郎・訳『カリギュラ』(ハヤカワ演劇文庫)の解説で、内田樹が演劇の性質を記している。 演劇において、戯曲家がそこに込めた「哲学的命題」がどれほど適切に観客に理解されたか、というようなことは問題にならない。演劇は何か有…

殺人の背景

ちゃちな衝動殺人事件のニュース記事と違って、『フロム・ヘル』(アラン・ムーア・作、エディ・キャンベル・画、柳下毅一郎・訳、みすず書房)に重みが感じられるのは、上下巻合わせて600ページに達するという物量によるものではない。 切り裂きジャックの連続…

出版業のこれから

鎌田慧は、出版2社倒産の一因として、新風舎の場合、不明朗な金の流れ、草思社は、自社ビル建設の負担を挙げている。 出版不況とはいいながらも、きちんとした本をつくっていれば、いきなりつぶれることはない。二社が連鎖倒産したからといって、これからの…

素晴らしい世界

浅野いにお『素晴らしい世界』(小学館)のうっくつしている登場人物には、大きな幸せが訪れるわけではない。それでも、彼女たちは、ちょっとしたことに、かすかな希望や可能性を感じ、生き続けようと決意する。 この世が完全に終わらない限り、少なくとも自…

老後の幸福

老いれば、記憶が薄れる。身体も変調を来たす。それでも昨今は、寿命が長くなった分、青春期を生き直す時間がある。 『やさしい嘘と贈り物』(米国、ニコラス・ファクラー)のロバートは、老婦人に恋をし、孤独から解放されたかのような幸福を味わう。偏屈な…

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