経験

mukuku2010-04-17

 アルベール・カミュ、岩切正一郎・訳『カリギュラ』(ハヤカワ演劇文庫)の解説で、内田樹が演劇の性質を記している。

 演劇において、戯曲家がそこに込めた「哲学的命題」がどれほど適切に観客に理解されたか、というようなことは問題にならない。演劇は何か有用な情報や正しい命題を後世に残すための手段ではなく、美しいものがまたたくうちに消え去るという事況そのものに立ち会う経験のことだからである。

 演劇と違い、小説は一回性のものではないが、受け手にとっては、その時期、その心境によって、味わいが異なるという点は共通する。
 時間に応じて変化する経験をつかんだかのような感触を生じさせるのが、文芸の力であろう。

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