2008-08-01から1ヶ月間の記事一覧

小説の方程式

方程式がないから私はまだアマチュアなんだと思う。でも、タイトルが決まると、「あっ、この作品は書き上げられるかな」と思いますね。(宮部みゆきインタビュー『ダ・ヴィンチ』9月号) 自分を絶対視しないことが、実作において、チャレンジ精神を継続させ…

芸術の生命

芸術は、ヒトの体から生まれた。そのヒトの体には、三十数億年の『生命の記憶』がつまっている。(布施英利『体の中の美術館』筑摩書房) 芸術は死骸ではないのである。

好球必打

今夏の甲子園を湧かせた常葉菊川が、好球必打の戦法に徹するまでには、紆余曲折があった。 三塁ベースコーチャーを務める高瀬旭弘が言う。 「センバツで負けてからパッとしなかったんで悩んでいたんですけど、心先生(佐野監督)が監督になってすぐ、『ボー…

自由のためのシステム

万人が健康で文化的な生活を営めるわけではない。 『この自由な世界で』(英国・ドイツ・イタリア・スペイン、ケン・ローチ)のシングルマザーは、失敗続きの人生を送っている。子どもを穏やかに育てたいと思っているし、独立して事業を始めるほど、前向きに生き…

ひきこもらない人

ひきこもりの男が、ピザ運びの少女に会うために、10年ぶりに外へ出た。そのとき、町中の人間が、ひきこもりになっていた。 オムニバス映画『TOKYO!』(フランス・日本・韓国・ドイツ)の1本、「シェイキング東京」(ポン・ジュノ)である。 そのとき、働い…

構造と力

若い書き手が、初めての作品を、書く前から(難しくなりますが)構造化することは不可能です。しかしかれに書き直そうとする意志の強さがあれば、その作業がかれを構造的な小説の書き手とします。つまり初めは構想できなかったものを、次つぎにかれ自身の具…

悪役

犯罪を楽しむ。自分が痛めつけられることさえ、快感を得る。バットマン・シリーズの最新作『ダークナイト』(米国、クリストファー=ノーラン)の敵役ジョーカーは、そんな男だ。 現代では、善と悪の間を揺れ動く悪役のほうが受けはいい。しかし、ひたすら狂…

崖の上で

子どもは独力で巣立ちができるのではない。だれかの後押しがいる。支えになれるのは、信頼できる大人たちだ。 わんぱくな子どもたちを良心的な大人たちが支える『崖の上のポニョ』(日本、宮崎駿)は、父を殺して袋小路に陥った少年の逃避行『ゲド戦記』(日…

体験という言葉

あらゆる体験は、現象の一部であり、主観的なものにすぎない。 私たちはごく間近から原爆投下を目撃したわけだが、あの雲の下で、あとで知ったような悲惨な状況が繰り広げられているとは想像もしなかった。「体験する」などという言葉を軽率に口にすることは…

空に浮かんで

いじめっこ、厳格な教師、頑固なおばあさん……。『赤い風船』(フランス、アルベール・ラモリス)の少年にとって、街は決して住みよくないだろう。 少年は風船をつかんだまま、空中を飛んでいく。 このラストは、悲劇だろうか。風船がしぼめば、少年は落ちて…

放浪と定住

『百万円と苦虫女』(日本、タナダユキ)の姉弟は対照的な生き方をしている。 成人の姉は、バイトをしながら行き先を転々と変え、まだ小学生の弟は、いじめられていても転校せず、地元の中学に進学することを決めている。 当然、生きづらいのは弟のほうだ。…

日本語文学から離れて

私は日本語文学という意識を持ってなくて、多くの人に読んでほしいと思っています。中国語でも小説を書いてみたい。(揚逸談「日本語で紡ぐ意味と喜び」朝日新聞8月3日) 日本語の言語表現のみに神経質な一部の芥川賞選考委員の思惑とは別に、一国の言語制約…

勝負どころ

アニメ会社に入社した押井守は、運も味方してか、3週間目に本番の絵コンテを任された。新人に演出をさせるのは、社内では異例のことだった。 ここが運命の分かれ目だ。この瞬間を逃してはだめだ、という経験は誰にでもあるはずだ。ふだんはちゃらんぽらんの…

文芸批評の対象

東浩紀は「文芸誌を中心とする狭い純文学の世界でのみ作品を論評することにはもはや意味はない」と厳しく断ずる。……「純文学のみを論じる対象とする文芸批評は、文学の最先端がどこにあるのかという認識に問題があるのではないか」(日本経済新聞8月2日朝刊)…

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