2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧

演出の情熱

倦怠気味のカップルが間近の結婚を伝えた途端、知人たちとの愛憎が勃発。破断寸前の関係に。 『PASSION』(日本、濱口竜介)の対話は、ほとんどの場面が一対一か、せいぜい一対二だ。お互いが濃縮された本音をぶつけあい、話をそらすことも、ごまかすことも…

焼け跡から

家が焼けた。フィルムも失った。監督の原將人が大やけどを負い、妻のまおりがスマホで日々を写す。 優しい息子と、無邪気な娘たち。撮ることと、撮られることで、現実の悲惨さが遠のき、希望の記録に変わる。 何があっても、どうにか生きている。『焼け跡ク…

ゲリラ的アート

匿名でありながら、世界中で金銭的にも評価されている。計算された風刺とも言えるし、高度なアートとも言えるが、単なる落書きであり、無意味なお遊びと言えなくもない。『バンクシー展 天才か反逆者か』(WITH HARAJUKUほか)は、世界各国で展示される作品…

ロシア側の論理

単に平和や制裁を唱えるだけでは、真の行動原理は見えず、現実的な解決からも遠ざかるだけだ。西側の報道・論調から漏れているロシア側の論理とは何か。2015年から2017年にかけて、オリバー・ストーンが行なったインタビュー集(土方奈美:訳『オリバー・ス…

無数の殺意

村紗耶香『平凡な殺意』(『新潮』2月号)は、小説でなく、エッセイだ。旧タイプのしごき型編集者に暴言を浴び、無理に理解しようとして、自殺衝動にかられ、ついには他殺の妄想をする。編集者との再会時に本意を伝えた筆者は、殺人を決行してはいないが、殺…

生きのびるために

子どもの時の失敗よりも、大人の時の失敗の方がより深刻に思えるが、雨宮処凛『生きのびるための「失敗」入門』(河出書房新社)で紹介される大人たちは、タイプもやることもまちまちだが、自分なりの居場所とか、生き方を続けて、何とかやっている。考えて…

被災者の対話

津波災害から半年後、ドキュメンタリー『なみのおと』(日本、濱口竜介・酒井耕)は、被災地の人々の対話をカメラが見つめる。監督やカメラの存在を意識させ、語る者や観る者に、被災のこわさと、人や地域の変化を感じさせた。 被災者は親族など信頼できる相…

対決の実態

『ワイルド・アパッチ』(米国、ロバート・アルドリッチ)は、騎兵隊が善で、対決するアパッチ族が悪という図式の活劇ではない。憎悪心が沸けば、白人にも同様の残虐性が生まれること、敵味方のどちらの側につくかによって、民族特有の倫理観が現れることに…

今が今であるために

いじりようのない名作をあえてリメイクし、役柄の民族にあったキャストをあて、新作の解釈で伴奏する。1961年以来、60年の時を経て制作された『ウエスト・サイド・ストーリー』(米国、スティーブン・スピルバーグ)には、現代の多様性を見据えた並々ならぬ…

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