小説の中で

mukuku2008-02-24

 小説を書く仕事とは、自分の中にもうひとつの世界を作り、それをとめどなく広げていくことである。今生きている現実と、小説世界の中の現実。仕事が増えれば、幾つもの世界を抱えることになり、その作業は確実に、生の現実の方を蝕んでいく。蝕まれたくなければ、小説世界の現実を緩めるしかない。私はそうしたくてもできなかった。それほど、生身の私が生きている現実よりも、自分の作る小説世界の方が面白かったのだ。(桐野夏生『白蛇教異端審問』文春文庫)

 まさに、桐野は小説の中に生きているのである。

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