2009-01-01から1年間の記事一覧

送り手と受け手

壁に落書きをする輩は至るところに存在するが、そうした連中の表現に、明確なメッセージがあるかどうか。おそらく、あるまい。 だが、『重力ピエロ』(日本、森淳一)の落書き犯は、複数の落書きにある思いを託していた。それらを解読する者がいたことは、実…

生身のアクション

『チョコレート・ファイター』(タイ、ヤーニン・ウィサミタナン)のエンディングでは、アクション場面の撮影風景が写される。 殴打されて身体を痛め、体を冷やす出演者たち。 特撮全盛の時代とは言え、生身の体がぶつかるからこそ、スポーツの試合同様の緊迫…

ドラマと事実

実話を元にした映画『余命1ヶ月の花嫁』(日本、廣木隆一)は、若いヒロインが乳がんで死んで以降、泣かせを目的とした場面が長くなり、興ざめさせる。 逆に言えば、大げさな感情表現のなかった途中までの演出は悪くない。 事実を信頼すれば、ドラマチックな…

進路

20年若返ったら、別の進路を選ぶのかどうか。中には、同じ道に進む者もいるだろう。現時点で、どちらの道が最良かは、本人にしかわからない。 妻子持ちのさえない男がバスケが得意な二枚目の高校生の姿に戻るという『セブンティーン アゲイン』(米国、バー…

栄枯盛衰

四川省・成都。そこに420工場と呼ばれる巨大国営工場があり、2007年に閉鎖された。 『四川のうた』(中国、ジャ・ジャンクー)は、労働者の実話を労働者役の俳優に語らせるセミドキュメンタリーである。 巨大工場の栄枯盛衰は、四川のおける後年の大地震を予…

子どもの見た情景

戦争や民族紛争・性差別といった主題をシンプルに描くならば、子供を使えばいい。教条臭さを防ぐことができる。『子供の情景』(イラン・フランス、ハナ・マフマルバフ)は、その好例だ。 幼い少女が市場で冷たくされ、学校で追い出され、戦争ごっこで悪がき…

師弟

弟子だからといって、師の教えどおりに演じるわけではない。師匠の落語をきいて、なにか違うなと思って、自分なりのやり方で噺をする。柳家小三治は、そう考え、実行してきた。 高座では名人芸を披露し、プライベートではスキーや食事を楽しむ。ドキュメンタ…

スラムドッグ

知っている問題しかクイズに出ない、悲惨な事態に遭遇してもその都度切り抜けられる……。 『スラムドッグ$ミリオネア』(英国、ダニー・ボイル)は、一見、ご都合主義的な映画に見えるが、恋人が顔を傷つけられ、兄も射殺されるのだから、すべてが主人公の青…

モンスターペアレント

モンスターペアレントが本物の怪物だったら? 渡辺源四郎商店の演劇『3月27日のミニラ』(下北沢ザ・スズナリ)では、反抗的な中学生の母親がゴジラである。教員はゴジラの来週を怖れて、対応がぎこちない。学校を辞めていく教員も多い。 少年の鬱屈感を理解…

平和維持

銃をぶっ放して敵を退治すれば一件落着などという単純な構図は、冷戦終結以降の世界に当てはまらない。あらゆる世界の力関係が複雑化し、デリケートになっている。 『グラン・トリノ』(米国、クリント・イーストウッド)の老人も、襲われた少年少女のためと…

雑文とエネルギー

作家にとって、エッセイをたくさん書くというのは、あまりいいことではないとぼくは思うんです。それだけ抽斗が少なくなっちゃうわけだから。(「村上春樹インタビュー」『モンキービジネス vol.5 対話号』) 雑文に、あまりエネルギーを費やすべきではない。

役者としての登場人物

「Aという人間」のなにかに反応して、これを「書きたい」と思った時、私は「Aという人間」の中に別の人間をはめ込むか、あるいは「別のBという人間」という設定の中に「Aという人間の書きたい部分」をはめ込む。そういうことが「人を描く」だと思ってい…

好書

『やなぎみわ マイ・グランドマザーズ』(東京都写真美術館)には、想像上の老婆の写真が飾られている。 「自らの法眼を手に入れ、好書を読むことがこの世で一番愉快なことである」 これは、被写体の一人であるKWANYIという老婆の言葉。 彼女にとっての好書と…

関係の奥に

ゲイの政治家ミルク。彼を銃撃するライバルのダン・ホワイト。 同性愛者でもあるガス・ヴァン・サントが『ミルク』(米国)で描く二人は、単なる政敵という関係だけではなく、別の感情も、お互いに秘めているかのようにも見える。

キャストとしての政治家

『フロスト×ニクソン』(米国、ロン・ハワード)では、ニクソンがしたたかな政治家というだけでなく、人間的苦悩を見せる。 公開討論で馬脚をあらわし、テレビ司会者のフロストに付け込まれてしまうニクソン。 政治家としては、小物だろう。しかし、すきのあ…

家族愛

愛情を求めるゆえに、暴言を吐いたり、とっぴな行動をするキム。 『レイチェルの結婚』(米国、ジョナサン・デミ)の一家は、キムのせいで、姉レイチェルの結婚式が台無しになりかけるが、キムを心底憎む者は、だれもいまい。 ここには、正直に愛すればこそ…

ヒーローの正体

『ウォッチメン』(米国、ザック・スナイダー)のヒーローたちは、コスチューム姿も、世界観も、すべてグロテスクだ。 これこそがヒーローの実態であり、ヒーローになりたがる人間の本性でもあるのだろう。

弱者の居場所

明確な目標と計画のないままに上京。都会の工場で派遣労働者として働く。そんな青年を批判するのは、たやすい。ドキュメンタリー『遭難フリーター』(日本、岩淵弘樹)には、派遣労働者の青年を、行動力がないと叱責する同級生や、批判力がないと罵倒する中…

ライフワーク

いくつかの手がけてる道筋がありますでしょう。あえて僕はテーマとか言わないんですが。自分のやっている道筋があって、たとえば長崎をずっと撮ってるとか、沖縄を撮りつづけてるとか、占領も同じことですが、終わりがないんです。多分、死ぬまでかかわり続…

犠牲を求めるならば・・・

少子化政策で中絶を強要されたり、ダム建設によって不便な山上への移住を強制させられたり……。 『長江にいきる 秉愛(ビンアイ)の物語』(中国、フォン・イェン)の農民夫人は、それでもたくましく生きる。 だが、政府は、彼女たちのたくましさに甘えてばか…

手続き

イスラエル占領地の新婦が、国境の検問所で、出入国の手続きをめぐって振り回されるという『シリアの花嫁』(イスラエル・フランス・ドイツ、エラン・リクリス)を、他人事として笑うべきではあるまい。 いずこの国でも、公的な手続きには、おかしなところが…

日本文化が亡びるとき

私たちがやっている身体の動きの感じは、日本語を話すことから離れては生まれ得ない。(岡田利規「私にとって「日本語が亡びる」ということ」『ユリイカ』2月号) 日本人が生活言語に無頓着になるときは、文化も亡びるときである。

現代小説の始まり

僕は、小説については、きわめて楽観的です。なぜなら、小説より面白いものは、この世に存在しないんですからね。(高橋源一郎談―柴田元幸との対談集『小説の読み方、書き方、訳し方』河出書房新社) はたしてそうか? その疑問から、現代小説は始まるのであ…

人生のベテラン

つらいことが起きたときは、無理してがんばらないことです。……暮らしや仕事をお休みして、一日何もせずねころがって過ごしましょう。落ち込んで、何もしない、だらしない日があってもいいのです。そうやって、力を抜いたり入れたりすることを覚えておくと、…

失ったときに

生きているのか、死んでいるのか。 『チェンジリング』(米国、クリント・イーストウッド)の母親は、行方不明の子供を捜し続ける。 手がかりをつかんだかと思えば、すぐに裏切られる。 失望の連続こそが人生の現実だが、母親は可能性を信じて捜索を続ける。…

舞台の上なら

ポツドールの『愛の渦』(新宿シアタートップス)は乱交パーティの一夜をドキュメンタリータッチで描く。 何もないから自分を追いつめるしかないと思ったところはあります。で、それがいつしか普通になってしまって。ふと気付くと、一般の人の価値観では、と…

組織の実態

収賄、暴力、癒着、隠蔽……。 『ポチの告白』(日本、高橋玄)では、警察官の不祥事がこれでもかとばかりに映し出されている。 どれも、実態に即したものらしい。日々報道される警察の不正事件の多さを考えれば、うなずける。 組織内だけで通じる論理が横行し…

思想の普及

キューバで成功したゲバラのゲリラ戦術も、ボリビアでは成功しなかった。現地人の協力を得られなかったことが原因だ。異国人の説く未知の思想が受け入れられるまでには、長い時間を要するのだ。 『チェ28歳の革命』(米国)、『チェ39歳別れの手紙』(米国・…

歴史が必要か

「明日があるかもわからない世界に、歴史なんて本当に必要なの?」(野田秀樹「パイパー」『新潮』2月号) この問いかけへの解答から、歴史が始まる。

フィクションの題材

戦中派の人たちが戦争をもとに発信してこられましたが、そのあとが続かない。……大学紛争の時代を生きた人たちは心の内に屈折したものを抱えていますから、自ずと社会的な視点を持ちえます。しかしその一〇歳下の世代になると、あまり社会的な関心がなさそう…

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