2016-01-01から1年間の記事一覧

ヨーロッパのまなざし

140分ワンカット・街中の即興演出。『ヴィクトリア』(ドイツ、セバスチャン・シッパー)は、技術面ばかりが話題にされるが、設定にも注目すべきだろう。 ベルリンを舞台に複数言語が飛び交い、ユーロ紙幣の強奪を巡って振り回される若者たち。一夜の思いが…

企画の知恵

番組の題材に規制が入るのは今に始まったことではない。 インタビュー「なぜNHKで「あんなドラマ」が作れたのか――?」(『週刊金曜日』27日号)で脚本家の早坂暁は、『天下御免』(1971年)ではアイヌ、『夢千代日記』(1981年)では原爆を取り上げたが、番…

テレビの二面性

テレビが健全でなければいけないという考えも、僕は大きな間違いだと思っています。テレビが人間を映す鏡ならば、人間の不健全なものも映し出すのがテレビです。品行方正であるべきだということはまったくない。そういう自覚を持ちながら、簡単に屈しない姿…

震災後の未来

チェルノブイリ、ヒロシマ、ナガサキ、フクシマ。そして、戦争。 木村朗子『五年後の震災後文学論』(『新潮』4月号)では、小説や映画をとらえ直すことで、歴史のなかでつながり合い、重なったものを見出している。いまだ消滅しない負の要素は、悲劇の誕生…

隠さぬこと

カドミ汚染の要観察地域に指定されながら、病気の存在を否定し、マスコミの取材を拒む対馬の住民たち。 鎌田慧『ドキュメント 隠された公害―イタイイタイ病を追って』(ちくま文庫)は、見るべきものを見まいとする人間心理と、人々をそうさせてしまう社会構…

ギャグとアート

旧作の批評、既成アニメのパロディー……。 何でもありの六つ子アニメ『おそ松さん』(テレビ東京、藤田陽一)は、原作者・赤塚不二夫の冒険的なギャグ精神を踏襲しつつ、センスのいいデザインで魅了する。 次にどんなスタイルになるのか、予測できないスリル…

森の出来事

一度は自死を決意した者の生還。救いをもたらしたのは、森に迷い込んだ謎の男だ。 『追憶の森』(米国、ガス・バン・サント)は、妻を失い、絶望して樹海を訪れた米国人が、再生を誓うまでの物語だ。 迷路のような森と、幸福のシンボルのような花。 シンプル…

復讐がもたらすもの

息子を殺された男が、西部開拓期の荒野を這いつくばって、仇を追う。 『レヴェナント 蘇えりし者』(米国、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ )は、男の執念を圧倒的な映像で見せつける。 主眼とするのは、強靭な精神でも、頑健な肉体でもない。罪び…

死者は揺らす

東日本地震の死者が時を超えて夢に現れる。姿を見せるのは、恋人だけではない。上演する演劇のモチーフとなった人物もだ。 『SHARING』(日本、篠崎誠)は、震災による傷を心理学的に描いたホラーだ。 生き残った人間に、死者がいつまで関与するのか。忘れら…

首相を知る

持ち上げるわけではない。といって、全面批判の側に立つわけでもない。 わかりにくい存在の首相が、いかなるタイプの人間で、どのような思考をしているのか。 青山和弘『安倍さんとホンネで話した700時間』(PHP研究所)は、まるで仕事仲間のように解説す…

下り坂の希望

無理な成長神話にしがみつかず、成熟社会をいかに機能させるか。 平田オリザ『下り坂をそろそろと下る』(講談社現代新書)は、コミュニケーションとコミュニティの有効なデザインを提言している。 下り坂であることを認めず、成長路線の復活に終始しがちな…

セカンドキャリア

現役時代、もてはやされたスター選手も、引退後に失敗すれば、スポーツバカとして、周囲に攻撃される。格差社会のうっぷん晴らしとして、標的にされるのだ。 第2の人生を充実させるには、個人の意識と社会の仕組みをうまくかみ合わせる必要がある。 特集「…

密室の外

変質的な男によって7年監禁された母と娘が隔離部屋を脱出するという『ルーム』(アイルランド・カナダ、レニー・アブラハムソン)は、いわゆる猟奇サスペンスではない。 密室から出た母子が、家族ら他人との触れ合いによって、トラウマから解放されるまでを…

人生のプロセス

鷲田 介護問題とか高齢者問題とかよく言うけれど、そもそもこれらは「問題」なんかじゃない。正解がない中で、どう介護し、どう育てるか、という課題なんです。「課題」はプロセスに問いのすべてがある。(鷲田清一×大澤正幸「人生の意味」『群像』4月号) …

残酷で優しい

『リップヴァンウィンクルの花嫁』(日本、岩井俊二)は、いくつもの名前をキーワードにしつつ、金と情、嘘と真の反転を静謐な映像で綴っている。 結婚の破たん、怪しげなバイト、知り合った女優との悲恋……。 悪気はないのにどん底まで堕ちていく女教師も、…

世界の緊張

他人を心底信じることはない。憎しみが情けに逆転するわけでもない。 『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』(イタリア、セルジオ・レオーネ)は、腹に一物ある3人の男たちが、墓に隠された大金を探して、南北戦争時代の荒野をさすらう。 常に緊張感のある者同…

居心地

高野文子『るきさん』(ちくま文庫)は、マイペースな女と世話好きな女友だちとのつかずはなれずの交流を描く。 ゆるい日常、ゆるい関係。 こじんまりした世界の居心地よさが、読み進むにつれて、じわじわしみこんで来る。

テレビの活かし方

最近のテレビ業界は「コンプライアンス」という言葉に縛られ、できるだけクレームが来ない番組をつくろうとしていないか。……無難で当たり障りのないテーマばかりを追いかければ、テレビはつまらなくなりますよ。(田原総一朗「テレビの時間」―『朝日新聞』4…

都会人の眼

新潟の豪雪地帯、越後妻有。過疎化が進み、決して住みよい場所ではない。だが、志を持って都会から移り住んだ者にとっては、別だ。 質素ながらおいしい郷土料理。個性的で助け合いを怠らない人々……。 ドキュメンタリー『風の波紋』(日本、小林茂)は、都会…

真実の歌

母の自殺やホームレス生活を経て、歌を詠み始めた鳥居。 苦心して覚えた字で綴ったのが『キリンの子 鳥居歌集』である。 どの歌にも、心情の虚偽はなく、切迫感がある。

受け手の問題

飴屋法水の戯曲『ブルーシート』(白水社)は、被災を題材にしつつも、題材の時事性に頼っているわけではない。 作り手には、いかなる対象をも昇華し、演劇として発芽させる強固な姿勢がある。 時事性にばかり、目が行くのは、受け手の問題なのだ。

何があっても家族

時代ごとに異なった家族を描き続ける山田洋次は、『家族はつらいよ』(日本)では、熟年離婚の危機に陥った一家の右往左往を描く。 相方が亡くなるのもつらいが、生きたまま別れるのも辛い。そんな皮肉をブラックユーモアで綴っているが、夫婦の決着は穏和な…

戦場としての金融界

『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(米国、アダム・マッケイ)で描かれるのは、リーマンショックまでの異常な金融投資だ。 不自然な金融商品で抜け目なく稼げるのは、悪知恵にたけ、運に恵まれた者だけ。余裕のある富裕層ならば、損失を補てんできるが、…

広義の文芸

……僕は哲学であれ経済学であれ何でもやれる形式が文芸時評だと思っていました…… (「インタビュー 柄谷行人 批評にできること」『すばる』2月号) 文系の発想故にできることもある。

憎しみの背景

大雪で閉じ込められた店に、いわくつきの悪人たちが集まり、互いをだまし、殺し合う。 話の筋だけ取り出せば、『ヘイトフル・エイト』(米国、クエンティン・タランティーノ )は陰惨な活劇にすぎない。だが、将軍やら保安官やら黒人やら、憎悪劇に込められ…

開いた絵

うまく書こうとせず、書く喜びに満ちているビートたけしの絵には、観る者を窮屈にさせない開放感がある。 絵画や立体作品などが置かれた『アートたけし展』(松屋銀座)は、子どもの遊び場のように居心地のがいい。

記憶を届ける

ドキュメンタリー『“浦”によせる物語〜作家・小野正嗣を育んだ蒲江〜』(Eテレ)は、郷里の亡兄と芥川賞作家とのかかわりを紹介する。 だれの悪口を言うこともなく、純粋だった兄。彼とかかわった集落の人たち。 若者たちのほとんどは、土地を出ていくが、…

一次産業のグローバル化

観察映画『牡蠣工場』(日本・米国、想田和弘)から見えるのは、グローバル化で変遷する一次産業の実態だ。 現代では、重労働ほど、収入を得られるというわけではない。トータルの配分では、頭脳労働にかなわない。投資価値のある市場に向けて、効率的に人員…

夢の効果

命綱なしで高層ビル間の綱渡りをするという無謀な試み。『ザ・ウォーク』(米国、ロバート・ゼメキス)は、実在の綱渡り師フィリップ・プティの挑戦を通じて、ワールド・トレード・センタービルの存在した時代のアメリカン・ドリームを再現する。 芸術家を自称…

人類の存続

『オデッセイ』(米国、リドリー・スコット)は、火星に取り残された宇宙飛行士が、無事帰還するまでのサバイバル劇だ。 制約の多い環境の下、最後まで知恵を振りしぼって、わずかなチャンスに望みを託す飛行士。彼を地球から支えるNASAの職員たち……。 宇宙…

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