隠さぬこと

 カドミ汚染の要観察地域に指定されながら、病気の存在を否定し、マスコミの取材を拒む対馬の住民たち。 
 鎌田慧『ドキュメント 隠された公害―イタイイタイ病を追って』(ちくま文庫)は、見るべきものを見まいとする人間心理と、人々をそうさせてしまう社会構造を、密着取材によって、浮き彫りにしている。
 著書の発刊後、内部告発の手紙によって明らかにされた真実は、驚くべきものである。だが、もっと驚くべきなのは、この種の隠ぺいが、現代でも様々なケースで再発していることだ。
 人も社会も、性善説だけでとらえるべきではない。偽装工作は、常に起こり得るものだからだ。
 人間は隠そうとしたがる存在だという現実にこそ、ふたをすべきではないのである。

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