一線を越えず


『ティエリー・トグルドーの憂鬱』(フランス、ステファヌ・ブリゼ )は、救いのない日々をドキュメンタリーのようなリアルさで映し出す。 家族を養うために、ティエリーは必死だ。仕事を得るために、高齢ながらも新しい技能を取得し、模擬面接で仲間から厳しく批判されても、なりふりかまっていられない。ようやく警備員の職を得るが、任務はスーパーの客を見張るだけではない。同僚の不始末をも監視することだった。
 店は、人員カットをしない半面、不手際があれば、即刻処分を下す。長年勤務していたレジ係に対しても、不正発覚後に解雇。身内のための小遣い稼ぎとはいえ、許しはしなかった。
 職務に忠実であるほど、同僚の職でさえ、奪いかねない不条理。それを避けて、任務を放棄すれば、再び厳しい職探しが必要になる。
 ティエリーの選択は、放棄だった。不器用さを責めてはなるまい。一線を越えず、信念を貫くのも、人間らしさなのだ。

 

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