伝える形


聲の形』(日本、山田尚子)は、ヒロインの硝子が障害者だが、いわゆる道徳アニメではない。傷害の有無以前に、他人同士が、自分らしさを残しながらも向き合えるかという、普遍的な物語である。
 逃げる自分、都合に合わせる自分、人に譲れない自分、遠くから見るだけの自分、場を理解できない自分……。
 自分らしさを変えるならば、旧来の自分を抹殺するしかない。硝子や主人公の将也が、自殺未遂を起こしながらも生きていられるのは、自分らしさを維持してよいと、理解できたからだ。
 彼女たちの世界には、貧乏やら親の暴力やらといったような、わかりやすいドラマにありがちな縛りはない。唯一の障害は、硝子の聴覚である。彼女の登場によって、クラスメートの関係が揺らぎ、より認識が先鋭化されたのである。
 小学校時代に疎遠になれば、再会しようとは思わないものだが、将也たちは、もう一度向き合おうとして、再会する。一時、仲良くふるまっても、心底では許しあっているわけではない。だが、関係を壊したままでいたいとは、だれも思わないものだ。その後も、お互いが距離を持ちつつ、関係を保とうとしているのである。
 傷の修復を体感した将也たちは、これからも生きていけるだろう。伝えようとしたものの形は、相手にも、自分にも、見えたのだ。
 
 

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