かなわないもの


 植本一子『かなわない』(タバブックス)は、母として、あるいは主婦として、育児や家事に悩む著者の本音を綴る日記も引きつけるが、後半のエッセイでは、離婚の未遂劇や、恋人との先行きに悩む女の葛藤が、真に迫る。
 ここまで書いていいのかというものを書き、それをさらけ出してしまうことに、読む者は動揺しつつ、感謝するだろう。変に取り繕うはしない人間の姿が、小細工なしに明かされているからだ。
 許そうとしても、許せない。認めようとしても、認めない。夫も娘たちも、本当は悪くないのだが、完全には受け入れられないもう一つの人格が、彼女の世界には居座っている。
 許せないし、認められないのは、自分に対してでもある。分裂した人格が、彼女の生き方を阻害していた。だが、もう一人の自分を見出し、愛そうとする彼女もいる。彼女は発見したのだ。
 発見は何かを失うことでもある。もう必要のないものは、去ってもらうしかない。恋人の退散は、必然だった。それでも、必要なものは、まだそばにいて、彼女を受け入れるのである。
 経緯を率直に明かした著者。タイトルは、自分を含めたものへの、経緯でもあろう。

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