2015-01-01から1年間の記事一覧

戦争的なもの

直接の銃撃戦を味わっていないにしても、国や民族との対決は、あらゆる分野で勃発しているものだ。 戦後世代は、生まれながらにして、戦争的なものを体感しているにもかかわらず、いま生きている時代が平和だと思い込まされただけなのである。 『機動戦士ガ…

文化の発掘

たいていのブームは一過性のものであり、定着することは期待できない。だが、停滞したかに見える分野が、一時的にせよ、活性化することは望ましいことである。衰退と繁栄を繰り返すことで、文化は継続できるからだ。 つまらないと思われたものが、つまらなく…

快楽の生きもの

『平成狸合戦ぽんぽこ』(日本、高畑勲)が見るたびに味わいを増すのは、環境の変化を普遍的に描出しただけではない。土地を追われ、自由を奪われたかに見える狸たちが、いかなる状態においても、能力に見合う形で、それぞれのポジションにおいて生き続けて…

万年漂流社会

老後イコール悠々自適という構図は、とうに崩れている。健康・財力・人間関係に恵まれていない限り、優雅な隠遁生活どころか、暗澹たる晩年を過ごす羽目になるのだ。 NHKスペシャル『老人漂流社会「親子共倒れを防げ」』では、親子同居が相互扶助どころか、…

日本の抑制手段

集団のリアリズムに徹した1967年製作の岡本喜八版。阿南陸軍大臣と昭和天皇の心情をとらえた2015年の原田眞人版。1945年8月15日の戦争終結を伝える新旧2本の『日本のいちばん長い日』(日本)は、玉音放送が流れるまでのてん末を再現している。 敗色濃厚の現…

活動の源

『戦後70年 「一番電車が走った」』(NHK総合)は、原爆投下後、路面電車を復旧させるために、作業に奔走した電鉄社員と、運転を任された少女の実録ドラマだ。 市内が焼け野原になっても復興に向け、すぐさま活動できたのは、再度の原爆投下がない、日本…

哀しい人類

死は滑稽で、生きることは哀れ。 『さよなら、人類』(スウェーデン・ノルウェー・フランス・ドイツ、ロイ・アンダーソン)は、さえないセールスマン・コンビが奇妙な人間たちと遭遇する寸劇集だ。 どの場面もシュールなだけではない。セールスマンの聞く歌…

記憶をつなぐ

『波伝谷に生きる人びと』(日本、我妻和樹)は、震災前の漁村で暮らした人々の姿を撮影した貴重な映像だ。 失われた物を記録し、記憶を現在へとつなぐ映画。 被写体となった人々のうち、災害で犠牲になった者もいるが、残された者は、今もなお生き続け、村…

生物のもたらすもの

CG技術の進歩で『ジュラシック・ワールド』(米国、コリン・トレボロウ)の恐竜たちは、よりリアルにスクリーンを闊歩する。 実際にテーマパークで観覧しているかのような楽しさとスリルを味わえるが、恐竜が逃走したとなると、話は別だ。 科学技術が発展…

戦場のホラー

手足がちぎれ、血流を噴出させ、人肉をむさぼり食う戦地の日常は、ホラーそのものである。 決して平穏ではない戦場の実態を映像化した塚本晋也『野火』(日本)は、大岡昇平の原作小説とは異なる次元での怖さがある。

言葉と絵

凡庸であるが故の意地と気力。 『ヨーコさんの“言葉”』(講談社)は、佐野洋子の力強い言葉を、北村裕花の絵が引き立てている。

作家の姿勢

不特定多数の質問に村上春樹が返信する『村上さんのところ』(新潮社)では、一見、小説とは無関係な質疑応答においても、小説の作法や構造が語られている。 いかなる場でも、村上の作家としての姿勢は、一貫しているのだ。

映画の素材

だって面白いことばっかりじゃないですか、この世の中。映画の素材なんて、無尽蔵にある気がするんですけどね。僕なんか、何を見ても映画に見えちゃう。(想田和弘『カメラを持て、町へ出よう 「観察映画」論』集英社インターナショナル) 独特な素材と斬新…

生きるのは卑怯か

戦時に生き延びようとする特攻隊員は、卑怯なのか。 だれもが、卑怯と感じていたわけではない。 佐藤忠男は、「映画が描いた戦争」(日本経済新聞:29日夕刊)で、自分が山崎貴『永遠の0』の熱っぽい悲壮美からは遥かに遠い所にいたと述べている。 不合理な…

運命の皮肉

秘密警察員の夫に愛情どころか、恐怖心しか、抱いていなかった妻。エリートの彼が窮地に陥ってから、ようやく愛情を感じる。 社会的身分と私的幸福が一致するとは限らないが、『チャイルド44 森に消えた子供たち』(米国、ダニエル・エスピノーサ)でスター…

男子が主役

教え方を知らないバケモノと、育てられることを知らない人間の男の子。 『バケモノの子』(日本)は、父子のような師弟が異界を行き来して、お互い学びあって成長する。 ファンタジーと日常の幸福な結合。男子が主役でも、細田アニメのワクワク感と心地よい…

人間の信仰

ベルイマンばりのシニカルな会話と衝突。 『雪の轍』(トルコ・フランス・ドイツ、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン)は、いやらしさ、醜さをさらけ出すが故に、人間のリアルな姿が見える演劇風のドラマだ。 名誉も財力も備え、美しい妻と良き友人に恵まれた男でさ…

傷の癒し方

子ども時代の心の傷は生涯、負い目になる。 もし癒すとしたら? 方法は難しいが、単純だ。 『きみはいい子』(日本、呉美保)では、甥に癒された新米教師が、教え子の小学生に方法を伝授する。 家族の誰かに抱きしめてもらうこと。それだけのことだった。

人間力

『フレンチアルプスで起きたこと』(スウェーデン・デンマーク・フランス・ノルウェー、リューベン・オストルンド) リゾート地での冷たい行動によって、妻子からの信頼を失う男。 夫婦の亀裂は、他の旅行客にも波及するほど深刻になるが、救ったのは弱さの…

神の逃走

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(米国、ジョージ・ミラー)に半端な人間ドラマはない。獰猛な人間たちの戦闘だけをひたすら映し出す。 近未来の逃走劇に徹したことで、神話的な世界がよみがえるのだ。

つなぎ目

戦争は、青春の喪失であり、体験の継承であり、肉体の酷使であり、記憶の想像である。 マームとジプシー『cocoon―憧れも、初戀も、爆撃も、死も。』(東京芸術劇場)には、戦時と平時のつなぎ目がある。

家の時間

母の異なる妹を含む4人の姉妹が、鎌倉の一軒家で暮らす。 『海街diary』(日本、是枝裕和)は、柔和な光の下、彼女たちが地元の健康的な食を楽しみ、それぞれの価値観において進路を選択する。 父の死も、母との再会も、自分を持っている彼女たちを揺らがせ…

根底の問題

2002年6月。イスタンブールの安宿に貧乏旅行の青年たちがたむろし、合同開催のワールドカップ・サッカーを観戦する。 日韓合作の青年団『新・冒険王』(吉祥寺シアター)に集うのは、日韓米の青年だが、完全には打ち解けられない。出自をたどれば、民族の対…

どら焼きのごとく

どら焼き屋で働く前科者の店長と素性不詳の老女との交流。 『あん』(日本・フランス・ドイツ、河荑直美)は謎めいた人間劇を品のいい映像で魅せる。 ドリアン助川の原作小説と河荑の演出が、生地と餡のごとく、柔和に調和している。

キャラクターの活力

奇抜な状況設定だけで完結しがちだった園子温。『新宿スワン』(日本)は、漫画の原作によるキャラクターが躍動することで、ストーリーにダイナミズムを生んでいる。 歌舞伎町のスカウトマンの攻防には、やくざ映画ほどの殺戮はないが、ぎらつくエネルギーが、…

サンドラの得たもの

リストラ撤回の投票で賛同を得るために同僚宅を回る女。『サンドラの週末』(ベルギー・フランス・イタリア、ジャン・ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ) での彼女の苦闘は、民主主義を徹底するための行動と、真の友情のあり方を問いかける。 結…

中高年の青春

ポップミュージシャンとして日本の第一線で活躍した大江千里が、50歳近くになって渡米。無名のミュージシャンとしてニューヨークの学校で基礎から学んで、ジャズピアニストを目指す。 『9番目の音を探して』(KADOKAWA)は、大江自身が綴った謙虚な…

憲法のリアリティ

今の日本で「権利」や「人権」が守られているのはごく一部、という現実がある。……だからこそ、すべきこと。それはリアリティを失った「憲法」に、リアリティを取り戻すことだと思うのだ。「憲法が大切」と言うと同時に、権利が侵害されている人たちの権利を…

空間の広がり

ままごとの音楽劇『わが星』(三鷹市芸術文化センター)は、一時代前の家族の団地生活を宇宙にまで広げて、過ぎ去った時間のかけがえのなさを体感させる。 ジャンルの越境は、空間の拡張と連関する。

孤独の深部

同性愛発覚で左遷された警察署長と、継父に暴力を振るわれる少女。二人の孤独な女が結びつき、結びつくことで傷つけあう。 『私の少女』(韓国、チョン・ジュリ)の背景には、異分子に対する男の抑圧社会があるが、性差以前の普遍的な情愛やつながりが、深部…

アクセスカウンター