事故の責任


 たとえばある工学者がある構造物を設計したのがその設計に若干の欠陥があってそれが倒壊し、そのためにひとがおおぜい死傷したとする。そうした場合に、その設計者が引責辞職してしまうかないし切腹して死んでしまえば、それで責めをふさいだというのはどうもうそではないかと思われる。その設計の詳細をいちばんよく知っているはずの設計者自身が主任になって倒壊の原因と経過とを徹底的に調べ上げて、そうしてその失敗を踏み台にして徹底的に安全なものを造り上げるのが、むしろほんとうに責めを負うゆえんではないという気がするのである。(『寺田寅彦随筆集』第5巻、岩波文庫

 
 当事者ゆえに、事故を客観的に見れないという場合もあろう。だが、当事者だからこそ可能な責任の取り方もある。

アクセスカウンター