一九七二年、朝日ジャーナルの記者だった川本三郎は、自衛官刺殺事件取材後の証憑隠滅で県警に逮捕され、新聞社を解雇された。
失態の負い目は、評論家に転じてからも、ずっとついて回った。
映画のこと、文学のこと、あるいはマンガのこと、さまざまな評論を書いても、最後のところで、七二年の出来事が思い出されてしまい、そこでいつも言葉がつかえつまずいてしまった。
(『マイ・バック・ページ』平凡社)
時間の経過と共に、川本は事件を冷静に語れるようになった。
禍根となった出来事。それは心の負担にはなったが、書くための核にもなっていた。